大神人物考察

大神に登場する主な人物は、大きくわけて「神秘の力を持つ美女」と「夢見るダメ男」と「闘う犬」と「襲ってくる魔物」の四種類に分けられる。女神に助けられ、忠犬に付き添われて、魔物を倒して、救いを求める女を取り戻す、夢見がちな男の話が基本だと思えば良い。

夢見るダメ男 闘う犬 神秘の美女 襲ってくる魔物
スサノオ アマテラス アマテラス ヤマタノオロチ
イッスン 八犬士 サクヤ ジョロウグモ
オキクルミ オキクルミ クシナダ 舌切り夫婦
コカリ カグヤ 赤カブト
ベンケイ ツヅラオ ツヅラオ
イザナギ ヒミコ エキビョウ
ミカン爺 オトヒメ 常闇の皇

「夢見るダメ男」というのは、スサノオを典型とするキャラクターである。アマテラスが筆しらべで助けなければ、この世界の男は釣りもできない。ダメ男とまではいかないものの、己の夢に力及ばないお爺さんや職人や少年はいっぱいいて、彼らを助けるのがこのゲームのシステムであり、ストーリーである。

「闘う犬」とは、死ぬ覚悟で主人に尽くし、魔物と闘う存在のことである。アマテラスの元ネタのしっぺい太郎や桃太郎のお供、花咲かじいさんの犬、南総里見八犬伝、現代では忠犬ハチ公に盲導犬サーブなど、人に仕える者としての犬のイメージは日本人の心に根強い。

「襲ってくる魔物」達は実に様々で、あまり人格的な存在ではない。彼らの動機はあまり語られない。襲うことそのものが目的のようである。他にあえて言えば「生け贄よこせ」である。これはゲーム的なアイデアが優先されているせいもあるだろう。

「神秘の美女」は、主に「女神」と「姫」にわかれる。

女神とは、主人公達を不思議な力で助けてくれる美しい女性達のことである。クシナダは人間の女性なので彼女の神秘の力というのは、酒造りの才能である。この酒が、ヤマタノオロチ戦でスサノオとアマテラスを助ける。ピリカは女神ではないが、巫女である。

逆に姫とは、魔物に襲われて、本人か保護者が、主人公に助けを求める存在である。クシナダもそうだ。世界の危機を感じ、主人公のアマテラスを蘇らせたサクヤも、助けを求めるが故に主人公を助けてくれる存在の典型である。助けてくれるだけの女性というのは、ほぼいない。

このゲームでは助けられるだけの女性も、アイテムや感謝の念(幸玉)で主人公を助けてくれるので、主人公も魔物と闘った甲斐があるというものである。

さらに「幼なじみ」という役割がある。これは通常「神秘の美女」の逆の属性である。

彼女らは、後に英雄となる男に好意を寄せる女性達である。クシナダはスサノオに、ミヤビはイッスンに、カイポクはオキクルミに好意を寄せている。クシナダのような才能はないが、ミヤビやカイポクは「人間の女」ではないという点で、ユーザー視点からは「神秘」である。

助けてくれる女神 助けを求める姫 幼なじみの少女
サクヤ サクヤ ミヤビ
クシナダ クシナダ クシナダ
ヒミコ ヒミコ カイポク
オトヒメ オトヒメ
ピリカ ピリカ
フセヒメ
カグヤ
チュンジャク

 

また、「夢見るダメ男」を更に細かくわけるとだいたい以下である。

英雄候補 道を見つけた男 負けた男 こだわる職人 夢見る爺
スサノオ ヨイチ ヤツフサ 名も無き男 ミカン爺
イッスン ベンケイ 宝帝 味美 花咲か爺
オキクルミ コカリ リュウオウ 竹取翁 竹取翁
イザナギ 真澄 ヤマネコ亭の主人 一尺
ハヤゾウ ウミネコ亭の主人
流行衛門
大工の親方
タマヤ

「英雄候補」というのは、戦いや旅などの試練を経て「周囲の期待に応えられないダメ男」から、世界を救った英雄とか、天才になる存在である。

「道を見つけた男」というのは、昨日の自分にさようならして、新たな道を見つけた者達である。

「こだわる職人」というのは、職人として何か目指す理想や目標がある者達である。彼らは、そのための「何か」を手に入れていない、あるいは失った者達であり、それを主人公が補うのである。

「夢見る爺」というのは、本人の人生自体はきちんと見つけているのだが、その上で枯れ木に花が咲くという奇跡を待望していたり、娘や孫に夢を抱いている者達である。

「負けた男」というのは、ダメな男といっては気の毒だが、力及ばす魔物に倒されている者達である。英雄である主人公が、強き支配者である父親を倒して母親と結婚するという物語が、エディプス・コンプレックスである。が、「王である男」が主人公達がついた時にはすでに、魔物に倒されているパターンが、このゲームには見られる。そして未亡人達は子供や犬を育てる。これはこれで「父を亡き者にして母を独占」というパターンのような気もする。この世界の正統的な支配者は「神秘の力を持つ女性」なので、支配者としての男性は排除される傾向にあるようだ。また、排除すべき敵として登場するオロチそのものが「悪しき支配者である男」であるとも見ることができよう。そしてその支配者にひざまずく女が「魔物としての女」なのである。ジョロウグモ、ツヅラオ、お笑いキャラだがアジミ、はそういう存在である。

 例外的存在

主人公のアマテラスは、「神秘の力を持つ女神」ではあるが、女性の姿をしていない所が、他とは異なる。
それは、彼女のみが「闘う犬」でもあるからであろうと思われる。

「神秘の美女」で「襲ってくる魔物」のツヅラオも例外的存在である。

「夢見る少年」で「闘う犬」のオキクルミも、例外である。ただし、彼の物語は忠犬であるシラヌイと、女神であるアマテラスに付き添われて、魔物を倒し、少女を魔物から取り戻す、である。

ウシワカも例外的存在で、「神秘の力を持つ美男」というのは他にいない。ただ、彼も「夢や目標を持っているが、力足らずでアマテラスに助けられる」という点では、他の男達と変わらぬ役回りである。神秘的な異国の民というのを、外来語で表現されている。翼と金髪と宇宙人という点では、『デビルマン』の飛鳥了を思わせるが、「天から来た者」の日本人的イメージなのだろう。

一貫婆やクシナダは、女性だが「こだわる職人」である。


初出・2006.6.18 改訂・2006.6.26 文責・水沢晶