大神絵柄考察

このページでは大神の絵柄を考えてみる。

色合いについて

アマテラスはこんな色である。

     
     
     

白い体に赤の隈取りと炎という日本国旗カラーが基本である。いうまでもなく日本国旗の模様は太陽を意味している。
また、赤の補色である緑がワンポイントである。この神器は、銅鏡であるので、色は緑青である。銅鏡は太陽を象徴するもので、意味的にも色合い的にもおさまりがよい。

目や鼻などの細部は、白の反対の色である黒の線で描かれる。

 

ウシワカはこんな色である。

     
     
     

春の花木に鶴といった感じの色合いである。紫は自然界にあまり存在しない色であり、神秘と高貴の色である。平安時代、最上の色とされた。桃色は美少年としての色気を強調するために、緑は補色としておかれていると思う。羽根の白は、アマテラスの白と同じで、俗世の汚れの無さを示しているのだろう。

 

スサノオはこんな色である。

     
     
     

赤やピンクがない。紫の衣服に、翡翠と思われる緑の勾玉。衣服の色合い的には高貴だ。が、肌の露出の多さと木刀、のばし放題のひげや髪の、黒や茶色が、村の力自慢といった雰囲気を出している。

 

オキクルミはこんな色である。

     
     
     

二面性のあるキャラクターだというのを、色で表現されている。感情を抑えた落ちつきを感じさせる紺色。これは夜の空や深い水の色である。そして激情や攻撃性を示す赤。これは血の色で、炎の色。それに清らかさを感じさせる青の仮面を着けている。

  

昼の風景はこんな色である。

昼の自然はこんな感じである。水と緑と土に桜の花。それを明るく照らす太陽。

     
     
     

基本的にこのゲームの色彩はあざやかで、日本の春の生き生きとした感じを出そうとしていると思う。特に水や何かが光り輝くといった表現が多いと感じる。

濁った色やあせた感じの色はあまり使われない。渋い色合いからも、ほど遠い。

ゲーム画面では表現が難しいためか、日本画ではお約束の金や銀の色は使われない。日本画や着物は濃い色が多いが、このゲームはそうではない。

 

夜は青緑色である。空は黒い空に黄色い月、夜の地上や洞窟は青い光に満ちている。神秘と探索がこの色合いの風景のテーマではないだろうか。ほら、そこに何か光るお宝が。

     
     
     

ちなみに古い日本画は原則的に「星」を描かない。『大神』の星座の使い方は、ギリシア神話が常識になった現代日本のゲームならでは、だろう。

 

絵柄について

 

浮世絵などの伝統的な日本の版画は繊細な線と書き込みを美としている。

しかし、そんな線は止め絵のギャルゲーででもなければ、再現できないだろう。

この大神の線は素朴である。鳥獣戯画のような大胆な線だ。筆と版画の間のようだ。

このゲームの人物の体形は、みんな幼児体形である。足が短く、胴が長い。

おとぎばなしの世界とは、子供の世界ということなのだから、登場人物の体形が子供っぽいということは、懐かしさや親しみを増す上で効果的だろう。

子供は単純な線と、鮮やかな色合い、派手な動きを好む。その点では、『大神』のグラフィックは子供向けである。

ただ、子供はオーバーな表情によく反応するので、表情をあえて消した大神はやはり「大人が子供時代を思い出すのための」ゲームなのだろうと思う。

 

大神繪草子 絆-大神設定画集-』を見て

人物の絵を見ると島崎さんという人の印とコメントが付いている絵と、吉村さんの印とコメントがついている絵がある。

このお二人の絵の差異がこの画集では、はっきりと見つけられなかった。吉村さんのインタビューを読むに、吉村さんが作り出した絵のタッチに、島崎さんが合わせたのだろう。

お二人は、大神の陽の面の担当者である。
明るく親しみやすい人物を作り出した。
人物の体形は丸っこいが、着物は角がある。
人物の色の彩度は高いが、色の選択自体は原色を避けて上品である。

魔物の絵についてる印とコメントを見ると、佐和記さんという人が一手に引き受けられたようだ。

佐和記さんは、大神の陰の部分の担当者である。
暗く怖い化け物達を作り出した。

大神天道繪巻では、人物が、魔物に囲まれている絵が多い。黒い妖気や巻き付く蛇や手足の多い蜘蛛が人や世を脅かす。
からみつく髪の毛のような、黒くて細長い線が数多く、画面に走っている。
全体的に闇の濃い絵が多く、線も描写も繊細である。

赤く縦に滴り落ちた血が画面を染めている。血という文字が書いてあることもある。
英雄は闇の中で光る剣などを切っ先を天に向けて掲げている。
人物も細長い印象で、おそらく奈良時代の仏教美術などの優美ですらりとした人物を参考にしているのだろう。女性の胸の大きさは現代的だ(イッスン的?)。

背景の絵は、菅さんという人のコメントが付いているものと、神谷さんのコメントがついているものがある。どうやら、神谷さんのコメントがついているものは、掘さんという人が描いたらしい。何か事情があって、本人がコメントを寄せられなかったようだ。なので、菅さん以外の背景デザイナーは、一人なのか、何人ものスタッフがいたのか、確信がもてない。
絵に書かれた文字が同じようなので、一応掘さん一人と仮定して話を進める。

大神の絵柄が決まるまでの試行錯誤が、絵に表れているのか、神谷さんのコメントがついた背景絵の印象は色々である。

笹部卿「旧イメージ」や「風神宮・旧イメージ」の、神秘性を強調した、CGっぽい光と緑を基調とした色合い。
舌切りジジの家「旧イメージ」の、日本昔話のアニメのような、平面的な家と木。
西安京の、人物に合わせたような、太い線で描かれた、可愛らしく、丸っこい家。
構図に決まったパターンというのは、あまりない。色々と描ける人なのだろう。
あえていえば、建物を描くときに、斜めからとか、上からとか角度を付ける、扉等を中心からずらす、というのが多い。
色合い的には、白、赤、緑と、アマテラスカラーが基調で、それに大地の茶色を加えた感じ。絵の線も色合いも、デフォルメの方向性も、人物に近づけようとしたものと思われる。

菅さんは、絵柄が確立している。
真ん中に道がある。門がある。扉がある。鳥居がある。洞窟が開いている。谷間がある。あるいは真ん中に天地の境がある。
塔や木などのシンボリックなものが中心にあることも多い。
そして、それを見ているアマテラスがいる。
絵の色合いはステージごとにかなり異なる。この臨場感と迫力の出し方は個性なのだろう。

このゲームの移動というものが、犬が木を目指して、道を歩くと扉をくぐるのくり返しだからだろうか。新たな世界を扉で表現し、可能性を木で表現しているのかもしれない。

実際のゲーム画面でも、プレイヤーは自分の行く先を見る構図になることが多い。アマテラスを置いているのは、ステージの大きさを見た人に知らせるための指標なのか、詩情なのか。


初出・2006.8.2 改訂・2007.8.10 文責・水沢晶