だぶん

新人太郎作品ではないから期待しないでね


彼女と彼女

「ふう。」

”新人太郎”は、今まで勢いよく叩いていたキーボードから指を休め、画面から眼をはなした。
タッチタイピングで集中して原稿を書き上げるのはかなりのエネルギーと精神力を要する。
疲れた体を軽くほぐすように大きく伸びをしてから机から立ち上がった。

ここは大阪市内にあるマンションの13階。窓から見える夜景が美しい。
”新人太郎”は冷蔵庫から、よく冷えたビールを取り出し、プルタブを押し込んだ。
勢いよく口に入れる。その喉越しが気持いい。

ようやく一息ついた気分だ。
いつも執筆の後はこうだった。
肩口までかかる豊かなロングの髪を掻きあげる。
彼女が男の仮面を脱ぐ瞬間。
そう、”新人太郎”とは仮の姿。
彼女がHな小説を書きたい願望に駆られたとき、その欲求を満たすために作り上げた虚像。
女であることを公にして、SM小説を書いた時には必ずといっていいほど勘違いした野郎がでてくる。
彼女自身、某出会い系のチャットに参加したときなど、こちらの意見はお構いなしに妄想をたぎらすバカばかりで嫌になったものだ。
それ以来、”新人太郎”という偽りの名前をネット上では名乗ることにしている。既婚という予防線まではって...

と、そのとき...

「今、何か横切らなかったかしら...?」

ベランダの外に怪しい物影が...

気のせいね。なんていってもここは13階。簡単に侵入できる高さじゃないわ。

自分を無理矢理納得させたそのとき、ふいにガラスごしに奇怪な物が顔を覗かせた。
それは小さな顔をしわくちゃにし、頭にはろくに髪の毛もない猿面した人物であった。
というより猿そのものといってもよかった。

「ヒー!!、さ、猿が...!!!」

”猿”はガラッとベランダに面したガラス戸を空け、堂々と部屋に侵入してきた。

「猿とは失礼やな。わいの名前はちゃんとあるで。マンサクいうもんや」
そういうとマンサクはにやりと笑った。

え!?これがマンサク...?
ネット上で素性を隠している以上、実際会うのは初めてだ。
「屈伏浪漫」とかいう変態マルだしのページを作るような奴だからろくなもんじゃないと思ってはいたが、ここまでとは...

下品な顔を歪めてマンサクは話す。
「メールや掲示板の書きこみを見た時から、わいには新人太郎が実は女であることはわかってたんや。動物的勘ってやつかな?へへへ...でもこれほどのべっぴんやとは思わなんだわ。儲けもんやで」
「ど、どうしてここまでこれたの...?」
「まあ、匂いでわかるいうとこかな。それにマンションの下まできたらこっちのもんや。そのまま壁を登ってきたんや」

マンサクはあっさり言う。

「ま、ごたくはこんなとこでいいやろ。早速大人のお楽しみといこか」
「い、いやー!!!」
「自分の小説では、これからどうなるのかな?へへへ、やっぱり縛られるんやろな」

マンサクは持参していた、どす黒い荒縄を取り出す。

「見てみぃ、この色。ええ色やろが。今まで何人の女の汗を吸い取ってきたことか。あんたもこれで縛ったるさかいあんじょうしいや」

マンサクは”新人太郎”に襲いかかるや巧みな縄さばきで雁字搦めに絡めとっていく。その動きはまさに動物的なものだ。

「な、何をするのよ!解いてよ、もう!」
「いきがるのも、いまのうちやで。そのうち自分のほうから泣いて頼むようになるんやから」

そういうとマンサクはいきなり彼女の服を前から引き千切るようにはだけた。
ボタンが弾けとび形のいい量感あふれる乳房が露出する。

「うひょー、ええ乳しとるな。こんなん見せられたら揉みたくなってたまらんやないか。悪い女や」

自分でしておいたのを棚にあげ、好き放題言っている。
そしてその手をたわわに実った乳房に伸ばし、ネットリと揉みしだく。

「うっ!、き、気持悪いわよ!その汚い手をどけなさい!」
「わいは気持ええで。どうせ減るもんやないし、うるさい小娘やな..さて次は...」

マンサクの眼は既に下半身に移っている。

「や、やめてよ...そこだけは...」
「へへへ、そんなもん決めるのはわしや。観念するんやな...」

スカートに毛むくじゃらの手が伸びる。

(続く)



「ふう。」
そこまで書いて”マンサク”は伸びをした。
ここは東京都内にある高層マンションの20階。遠くに東京タワーも見ることが出来る。
”マンサク”は冷蔵庫から、よく冷えたビールを取り出し、プルタブを押し込んだ。
そして今書き上げた小説を読み返す。

うつむくと、セミロングの髪が頬にかかりうっとうしい。
薄く引いたルージュの口元を艶然とゆがめてつぶやく。

「小説は自分の分身とは良く言ったものね」

新人太郎さんが女?
そんなことあるわけないじゃないの。
それは私をなぞらえて作った仮想現実。
夢物語よ。

「でも、どれだけの読者が私が女であることに気づいているかしらね」
彼女は満足そうに笑みを漏らす。

そのときだった。
ガタッ
部屋の隅から不快な物音がしたと思ったら、ベランダから2メートルを超える大男がぬっと現われた。
「おばんでやんすー」
”マンサク”の笑みが凍る......

(続く....???)

 


戻る