続 悪夢の遊戯  その3
由佳は背中に拘束した手首を上へねじ上げられる痛みで眼を覚ました。気が付くと顔や身体中にに異様な圧迫感があり、ハイヒールの踵が尻に当たっている。

・・・セルフボンデージの最中に眠っちゃうなんて初めてだわ・・・

寝覚めの少しぼんやりとした頭で、無意識に手足を伸ばそうと力を込めた。
ところが・・・・・

「ン!?」

由佳はハッとした。
手首がビクともしない、曲げた脚が伸びない。首の後ろのリングと足首をつなぐベルトが伸びないのだ。
双脚を拘束した8の字型の拘束具も緊縮してまるで革靴の底のように固くなって、太ももとふくらはぎの筋肉に食い込んで固まってしまい、ピタリと閉じたまま開くこともできない。

「ングウウウウウ!!」

今度は全力で手足を引っ張る。
背後のベルトがビンと張って由佳の肢体がググッと反り返る。いつの間にか革の収縮性が失われているではないか!。

・・・なによこれ!・・・説明書とちがう!・・・

由佳は驚き、無意識にもがきはじめた。
と、次の瞬間ギャグの下から声をあげた。

「ンンッ!」
 うそっ!・・・背中のベルト 縮み続けてる!・・・

もがきに合わせ、肩関節と膝頭が床から浮いて床と擦れはじめた。

・・・これって!・・・これってやばいよ!・・・

背中に蒸発できない冷や汗が滲む。
雁字搦めに拘束した由佳の美体がジリジリと逆海老にストレッチされていく。     
そのストレッチを自分の意思で止めることができず一方的に逆海老反りが増してくるのだ。
乳房の根元も絞られ、ボンデージスーツも乳首をつまむように縮みだし、股間にも食い込みはじめた。さらに肥後ずいき入りのオイルローションが追い討ちをかけ、隠微な刺激から逃れようが無い。
いつものような胸から太ももまで床に着いた「アメリカン・ホッグタイ」の感覚しか知らない由佳は、全身の皮膚や粘膜から隠微な刺激を受けながら、ヘソを支点に胸と脚が反り上がってくる状態に焦りとまどう。

・・・海老反りが激しくなってくる・・・そしたら身動きは、私の身体はどうなるの!・・・まるでプロレス技の逆海老固めだわ・・・誰にもマンション教えていないし、誰か来てもインターホンに出なきゃ帰っちゃう・・・眼も見えないし音も聞きづらい、このままじゃ脱出どころか助けを呼ぶことも出来ないじゃない!・・・開放されるアテのない拷問みたいなボンデージなんて冗談じゃないわ!・・・

自由を奪われた空想をしながらも実際には自力で自由になれるのがセルフボンデージの大前提である。命取りになるような拘束が現実になってしまうことなど決して望んではいない。

「ンウウウ!フグウウ!ングウウ!」

銀色に輝く海老反り女体が呻き声を上げながら狂ったように暴れはじめた。身動き出来るうちに一刻も早く脱出しなければ拷問縛りの体勢で放置されてしまう。それは苦悶の末の飢餓か発狂かいずれにせよ苦しみ抜いたあげくの死を意味する。せめて海老反りだけでも開放できれば・・・・・。

「グエ!・・・ウッ!ウッ!」

うつ伏せから横に倒れて頭を床にぶつけ手首足首を拘束具から引き抜こうと必死に腰を前後に振ってのけぞる。のけぞる度に太ももの筋肉がビンと張り、尻肉がヒップアップ運動のようにギュッと盛り上がり、くびり出された乳房がプルルと震える。

「ンウウウウウ!・・・ンウッ!ンウッ!ンウッ!」

まるで海に逃れようと甲板上を転げまわる釣られたカツオみたいだが、固まった拘束具は手足をがっちりつかんで離さない。
海老反りがきつくなり、腰を前後に振ることが出来なくなってきた。

と、今度はゴロゴロと転がりはじめた。
くびれた腰をねじり、空山基の女体ロボットのように美しく補正された女体の曲線をうねらせてゴトゴトと音をたてて転がっていく。
そして部屋の隅まで転がると壁に当たって止まった。

「ヒフーッヒフーッヒフーッヒフーッ」

息が苦しい。
日頃蓄えたスタミナに物言わせ暴れた由佳は全力疾走直後のような息苦しさに襲われた。ハーネスが縮んで胸を圧迫しているだけではない、オイルローションと汗が混じり、ボンデージスーツが計算より早く肌に密着し皮膚呼吸が出来なくなってきたのだ。
由佳はスーツによって皮膚呼吸が途絶されるということがわかっていない。
双乳をにゆすり上げ、美しく縦に割れた腹筋を大きく波立たせながら、鼻の穴は強烈に空気を求める。

突然、テーブルの上に置いた携帯電話の着信音がマスク越しにくぐもって聞こえた。
実は元上司、伊達からの由佳の様子を探るための電話なのだ。
由佳は咄嗟に音のする方へ転がりはじめた。
バックの体勢で尻がテーブルの脚に当たった。腰をひねり反動をつけると3度4度と尻をテーブルの脚に不器用にぶつける。

「ンン! ヒフーッヒフーッ ンン!」

・・・お願い・・・切らないで・・・

「ヒフーッ ンン! ヒフーッ ンン!」

・・・もう少し!・・・・切るなあ!!・・・

着信音が途絶えた。

「フグウウウウウ!!」
(チキショーーー)

・・・なんとかして携帯を落とすか、ナイフでベルトを切るか・・・

由佳は鎖骨から伸びる美しい首の筋肉を立てて苦しさを増した呼吸をなんとか調えようとする。ハーネスからくびり出た乳房をゆすり、股間は陰唇の形がわかるほどはりつき、さらにファスナーが陰部へ食い込もうとしている。
なかなか呼吸がおさまらないのだ。
しかし、由佳に休んでいる暇は無い。
横倒しでは重力が背後のベルトにかからず張力が弱くなる。その為ベルトは急速に緊縮していく。
下腹部が前にせり出てきた。

・・・はやくベルトを切らなくちゃ・・・

テーブルからキッチンへ行くにはカウンターを迂回しなくてはならない。眼は見えなくてもおおよその見当はつく。
ナイフのあるキッチンへ転がろうと海老反る肢体4度5度とねじる。しかし今度は重心が背後にきたので容易に転げられなくなっていた。腰をひねる度にヘソの窪みをエロチックに歪ませるだけだ。

「ンン!!ンン!!・・・ンン!!ングウウウウ!!」

必死に全身に力を入れてねじる!。
重心の移動を感じ、ゴロンとうつ伏せになったその瞬間、腰と太ももに今まで以上の激しい痛みが走った!。

「ウウウウウウウ!!・・・ングウウウ!!」

苦しい!
由佳は顎を仰け反らせ悲鳴を上げた。何者かが怪力で頭と足を背後でくっつけたかのように感じたのだ。
スチールメタリックに輝く胸が、自慢の美脚が、引かれた弓のように激しく反り返り、呻き声を漏らして曲線美の筋肉をひきつらせ床に転がってグラぐら揺れる。乳房も陰部も床から浮き、完全にヘソ周りの筋肉だけで立っている激しい逆海老縛りの体勢だ。
横倒しのせいで背中のリングと足首がかなり接近していたので、うつ伏せになった瞬間上体と太ももが上に向かってグンと反り上がったのだ。
新体操や曲芸で見られ芸術的な美しい体勢。しかも銀色に輝くスーツと革ベルトで雁字搦めに拘束した素晴らしい美脚の女が、である。
ボンデージマニアの由佳自身がこの姿を見ることができれば、輝かしいばかりのオブジェのような美しさにゾクッとするだろう。
だが、鍛えていたとはいえ由佳は軟体訓練をやっていない。
残酷なまでの美しさの代償に、逆海老縛りでうつ伏せの姿勢はかなり苦しい。
しかも、もがけばもがくほどファスナーが陰部をこすって隠微な刺激を与えられる羽目になっている。

・・・苦しい・・・息ができない・・・

由佳は苦痛のあまり再び横倒しになろうともがくが、横に倒れることができない。倒れるどころか背後のベルトは容赦なく縮み、ギシギシと音をさせながら由佳を激しく海老反らしていく。

「ハグウッ!・・・ンウ!・・・ンウウウ!」

頭を振り、引き締まった尻肉のエクボの下をビクンビクンと引きつかせ、腰を金魚運動のように左右に振りそり上がった太ももを頭と同じ方向にねじるのだ。

・・・早くベルトを・・・苦しい・・・このままじゃ気が狂う・・・

思い切り仰け反れば後頭部が足先にくっつきそうになった。
プロレス技をかけられたような苦痛に耐えながら、転がるのはかえって動けなくなると思った。そして揺り篭のように前後に揺れはじめた。

「ンン!・・・ングンン!・・・ンン!」

1センチでもナイフのある方へ近づこうと必死に体を揺らす。しかし、眼が見えず、へそ周りしか床に着かぬ逆海老縛りが自由に方向転換できるはずがない。
ゴト、ゴト、と腰骨と肋骨が床に当たる音をさせながら斜め横にジワジワ進みキッチンから離れていく。
しかも強烈な逆海老反りと苦痛で次第に体を揺らすことさえ困難になってきた。

ヘソ出しシャツにスリムパンツの脚線美で街を歩けば、女性でさえ振り返るほどのプロポーションの由佳は、スーツによってさらに曲線美を強調させながら、今や完璧に身動きできない残酷な姿にボンデージされてしまった。
さらに本当の 地獄行き が待っているとも知らず、苦悶の呻き声を上げながらもがきつづける。

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