退邪士 巴シリーズ

「あなたの邪、御祓いします!」


「……邪気が混じっているわ」
 一人の女性が言った。
 しかし、その女性は人間では無い。姿形はそうでも、手のひらに乗りそうなその大きさ、半分透き通っていること、宙に浮かんでいること、と数え上げればきりがない。
 まして、ある程度の能力を持ったものが見れば、彼女の身体から発せられているのが、人間の発する霊気とはまったく違う気を発していることが見て取れるはずであった。
「分かってるわよ。そんな事ぐらい」
 不機嫌そうな返事を、その隣にいる女性が言う。
 少女とも、大人の女性とも区別しづらい微妙な外見の人物の手には、長細く布で包まれた何かがしっかりと握られていた。何故か白の着物に緋袴という、いわゆる巫女さんの服装を着ているのだが、それが異常さを醸し出すとともに、彼女には似合っていた。着こなしている……と言えなくも無い。
「大丈夫なの? 何だったら、他の人に変わってもらっても……」
「バカ言わないで。これでもあたしは『カンナギ』の姓を冠してるのよ。退いたり出来ないわ」
 手のひらほどの女性はため息をつくと、厳しい顔で巫女姿の女性を説得しようと試み始めた。口調がそれまでとはガラリと変わった。
「いい加減にいたせよ。過去、幾人がそう言うて命を落として行ったと思っておるのじゃ。名など、後から付いてくるもの。命を粗末にするなど決して許されぬ」
 聞いてはいるのだろうが、巫女姿の女性は顔すらも向けなかった。ただ深夜の街並みの中の深淵を睨み続けているようだが、その視線は長い髪で隠され、表情すらも口や頬から見て取るしかなかった。
「初めから死ぬつもりで戦う奴なんていないよ。死ぬのは嫌。負けるのも嫌。でも、それ以上に奴等は許せない」
 彼女の言葉には何者の意見も寄せ付けない、確固とした決意があった。
 手のひら大の女性は再びため息をついた。
「相変わらず頑固よね……一体誰に似たのよ? ……やっぱり父親かなぁ? だとすれば、わたしが惹かれてるのも、その性格が由来してるのかもね……」
「うるさい。動いたよ」
 一瞬は、いつ終わるとも無い独り言モードへと入り込んだ手のひら大の女性も、巫女姿の女性の一言で目つきが変わり、突如緊張の糸が張り詰めた。
「行くわよ」
 手のひら大の女性は、険しい顔のままうなずくと、スッと姿を消した。『わたしがあなたを護る』彼女が消える瞬間、その想いが巫女姿の女性を包んだかに見えた。


 暗闇の中で少女は犯され、嬲られていた。一体、どれくらいの時間、続けられていたのだろう? その瞳は光を失い、ただ虚ろに空中を見ているだけだった。
 いや、正常に意識を保っていられないのかもしれない。何しろ、彼女を犯しているのは人間ではなく、男性の性器の数倍の太さを持った、長くうねる器官だった。それは少女の性器と言わず、アナルも、口も、その快感を貪りつくそうとするかのように脈動を繰り返していた。
 そして触手の根元には、一個の影がうずくまっていた。
 妖猫……ねこまたや化け猫と呼ばれる妖かしである。しかし、通常の妖猫にこのような能力があるはずが無かった。
そう、この妖猫は何者かに、身体を乗っ取られ、操られているようだった。
<邪>
 それはその一文字で現わされる。
 この世の中には数多くの気の種類が存在する。主なものとして、神気、霊気、精気、妖気、魔気……そして邪気……。気は何者かを生み出し、生み出された者はこの世界を形作るように生きていく。
 しかし、この邪気だけは違った。凝り固まった邪気の集まりは、大半が実体を持たず、他の者を乗っ取って、この世界に災いを起こすことを、その存在意義と為しているのだ。
 古来よりその災いを防ぐため、邪に対する力を持たないはずの人間の中にも、その邪と戦ってきた者達がいる。
霊気を自在に扱う為の紋様を生まれながらに宿し、それを駆使して戦う一族……。先ほどの巫女服の女性もその一族の者である。しかも、その中でも、紋様を二つ以上宿し、なおかつ神気や魔気によって鍛えられた武具・道具によって選ばれし者……『神薙(かんなぎ)』でもあった。
 ……そしてその女性は現在、この暗がりに入り込みつつあった。


 シャリン……
 微かな鈴が鳴るような澄んだ音と共に、銀の閃きが走った。それは犯されている少女を真っ二つにするかのように見えたが、実際には少女は傷一つ無いまま地面に倒れ、その陰部から斬られた触手が液化し、触手から流し込まれた液とともに流れ出している。
「七支(しちし)……殺してないわよね?」
 巫女姿の女性が囁くように、半透明で浮いている女性(どうやら七支という名前らしい)に言った。
「当たり前でしょ! 第四封は『布都御魂(ふつのみたま)』……虐げられ苦しんでいる人を助ける剣よ! ちゃんと避けたわよ!」
 七支は、心外だ!と言わんばかりの剣幕で言い返した。
「分かってるわよ。だから第四封を選んだんじゃない。言ってみただけ」
「もう……! 全く! 巴ってば!」
 巴と呼ばれた巫女姿の女性は、振り下ろした格好の剣を再び構え直し、妖猫へと向き直った。
「でも、もう第四封で無くてもいいよね」
「分かってるんじゃないの?」
 七支はからかう様に言った。巴は揚げ足を取られ非難めかせて口を開きかけたが、一瞬七支の方に顔を向けただけで、再び妖猫を睨み付け直した。
「結・第四封! 解・第三封!」
 巴がそう呟くと、手に持っていた白銀色の剣は、一度、赤銅色で棘を六本生やした奇妙な形の剣に姿を変え、その後、青銅色の刃を持ち、柄のかなり長い武具へと変化した。
「……邪と神を屠る剣……十握剣(とつかのつるぎ)……一気に決めるのね?」
「……当たり前でしょ。もうあんなことは嫌だもの」
 今度は七支の方を見る事すらせず、そう独り言を呟いた。
「……そうね。あんなことは嫌ね」
 何があったかは知らないが、七支の方も苦渋に満ちた表情で繰り返した。
「さて……行きます!」
 巴は少し強く言うと、思い切り地面を蹴った。戦い慣れしていない現代人の眼には、到底捕らえられないほどの速度で、相手との間合いを一気に詰めた。それに対応し、巴を目掛けて上下左右から触手が襲い掛かる。
「その程度じゃ、あたしを妨げる事なんて出来ないんだから!」
 巴はそう言い放ち、本能の示すままに剣を振るった。本来ならかなりの重さがあるはずの剣が、少女の細腕でもやすやすと振り回せている。かなりの勢いと質量を持って襲い来る触手ですら、まるでそれが存在しないかのように切り裂いている。
 すべての触手が切り落とされ、手を伸ばせば届くくらいの距離に妖猫を捉えた。
「これで終わりよ! 滅びなさい!」
 巴が剣を振り下ろそうとした時、不意に妖猫が声を上げた。
いや! やめて、殺さないで! お願い!
 いかに強力な剣でも、このモードでは妖気から生まれた妖物には傷一つ付ける事が出来ない。それは分かっていたはずなのだが、巴の脳裏には過去の記憶がまざまざとよみがえり、思わずその手を止めてしまった。
「巴!」
 七支が叫ぶ。しかし、その妖猫の身体を乗っ取った邪が、絶好のチャンスを見逃すはずが無い。
「ぐぅうう!」
 巴が苦しそうな声を上げる。
 それもそのはずだった。一瞬の躊躇、それに加えて背後からの不意打ちに、巴は反応しきれず首と剣を持った右手首に触手が巻き付くのを許してしまった。
 首のそれは、完全に締め付けずに、苦痛のみを与えてくるのに対し、右手首の方は全力を持って締め付けていた。
 ………ぺぎ………
 鈍い音とともに、いともあっけなく右手の骨は砕けた。持っていた剣が対照的に澄んだ音を立てて滑り落ちた。
「と、ともえぇぇぇええぇぇぇぇ!」
 七支の絶叫が響いた。しかし、今の状態では実体を持たない七支には、巴を助けるすべはない。巴の方もその声に反応するだけの余裕もなかった。意識は朦朧とし、細い息では声も出せない。
 妖猫はその光景を見て、にやりと口元を歪めた。その背後からずるずると触手が現れる。斬られて無くなったというのは見せかけだったのだ。
 巴は四肢の自由を奪われ、そのまま地面に押さえつけられた。別の触手が両足の先から絡み付くように袴の下に滑り込んでいく。そのおぞましいまでの感覚に巴の意識は現実を取り戻し、抗おうと全身を強張らせた。しかし、時は既に遅かった。いかに力が強かろうがここから抜け出すのは無理に違いない。
 ふくらはぎに、太股に、表面を脈動させた触手が這い回る……しかもそれは彼女の忌み嫌う邪のものである。巴の絶望といえばすさまじいものだろう。ついに両足をさかのぼっていた二本の触手は、それぞれ膣の入り口と菊座にたどり着いた。全力で抵抗していた巴の力も一層激しさを増す。
 ズリュ、ズリュ……
 触手はすぐには挿入されず、それぞれの穴に付いては離れ、付いては擦りあげ、自分が表面にまとっているぬるぬるした液体を染み込ませようとしている。
「……それほどの霊力……邪の育成にはもってこいの身体ね……壊してしまっては元も子も無いわ……せいぜい優しくしてあげる」
 妖猫の笑みは一層まがまがしさを増し、巴の姿を見下ろしている。
「くぅ! ……うぅ……ん」
 巴がうめき声をあげる。いかに声を殺そうとしても出てしまう……それが恥ずかしいのか、頬を艶っぽく赤く染めている。更に数本の触手が着物の合わせから入り込み、上半身を縛り付けるように絡み付く。大きめで形の良い乳房が締め付けられ、ひねられた風船のような形に姿を変える。
「ひぎぃいいぃぃ!」
 巴が苦痛にうめき声をあげるのを見ても、今の状態では実体すら持たない七支にはどうする事も出来なかった。非力な自分に絶望しつつ目を伏せる。
「っく……きぅ……」
 そうしている間も、巴は攻め続けられる。いつのまにか帯は取られ、袴も半ば破られ、身身体の中央線は完全に素肌を露にしている。そして、そこに幾本もの触手が集まりせめぎあっている。
「……ねぇ、なに目を背けてるの? あんなに綺麗なんだから、見てあげないと失礼よ」
 あまりに近くから聞こえた声に七支は驚きの眼で、顔をあげた。すると、音も無く移動していた妖猫が、七支の本体……今は青銅色の剣を手に取っている。
「貴様! それをどうする気じゃ!」
 いつもならそれなりに威厳ある態度も、今は空しさだけを漂わせるだけだった。
「あなただけ見ているって言うのも寂しいでしょう? だから手伝ってね」
 妖しい笑みが七支に浴びせ掛けられる。妖猫は再び巴の側に立ち、その頭のすぐ側の地面に剣を突き刺した。
「……あっ……はぁう……」
 襲いくる快感に必死で抵抗している巴には、そんな事など気にもとめられない。
「あはっ、あははは。気持ち良すぎて、周りが見えてないのぉ? あなたの一番嫌う邪の触手が相手なのにぃ? …………変態じゃない?」
 応答はしないなりにも一応聞こえてはいたらしく、妖猫のセリフに反応し、巴は顔を更に赤く染めた。
「ほら、ここだって……これ以上無いくらいに濡れてるじゃない」
 妖猫は手で愛液をすくいとり、巴の頬にピタピタと擦り付けた。
「こんなになってるなら、もう良いわよね。早速、中を味合わせてもらうわ」
 その言葉に巴は目を見開いた。今の状況でも屈辱なのだ。それなのに、もっとも嫌悪すべき邪が自分の中に入ってくる……そう思うとおかしくなりそうなほどの絶望感に囚われた。
 頭の中でズブゥッと言う音が二つ響いた。一気に突き入れられたと言うのに不思議と痛みはあまり無い。痛みがない故に快感を感じてしまうのだが、それがまた、彼女に屈辱を与えていた。
「うぁ……あぁん……いやぁ! あぐぅぅぅぅぅ!」
 声を殺そうとする……しかしそれは逆効果だった。膣と腸の隅々まで、奥の奥までを貪ろうとする触手の動きに耐え切れずに、耐えていた以上の声を発してしまう。
 するとまるで、その声に興奮したように、触手の動きが更に大きく激しいものになっていく。
「は、はぁああぁぁぁ! ぐひぃあぁぁ!」
 街中に巴の絶叫が響く。
「うっさいなぁ。人が来ちゃうじゃない。せっかくのお遊びに水が入っちゃうよぉ……仕方ない。これでも咥えておいて」
 叫ぶために開けていた口に、触手が突っ込まれる。喉の奥までの異物感に、吐きそうにもなるがそれすら許されない。首に巻き付いている事もあわさり、瞬間、息すらも出来なかった。
「ご……ごぼ……ぐぁ……」
「あ、ごめんごめん。息が出来なかった? もう大丈夫だから」
 偽りの優しさを浮かべた邪は、口に差し込んだ触手の中を広げ、巴が呼吸を出来るようにした。
「なにしろ死んでもらっちゃ困るから。……もうそろそろ大丈夫かな? 巣になってもらうよ」
 膣と腸、口内にも勢い良く粘った液がほとばしった。あまりの勢いと量に、膣はすぐにいっぱいになり触手と膣壁の間から流れ出した。
「ぐえ!」
 くぐもったうめき声を発すると同時に、巴の目が大きく見開かれた。苦しさもあった。しかし、その大半は快感……特に自分である部分が邪に侵食されていく事がとてつもないこれまでにない気持ち良さを与えていた。
 巴の瞳の光が鈍り、濁ったような色が浮かぶ。
「ふぅ……やっと落ちたんだ。普通なら挿入した時点で落ちてるのに……さすが、と言うべきね」
 妖猫は余裕の笑みを浮かべそう言うと、地面に突き刺していた剣を再び手に取り、巴の足元の方へ回り込んだ。
「ずぅっと目をそらしてたわね? 折角、特等席を用意してあげたのに……。まぁいいわ。今度はあなたにも参加してもらうから」
 巴から溢れ出た液を、妖猫は剣の柄に撫で付けはじめた。
「…………これでよし」
 柄がすっかりベトベトになると、妖猫は膣に入っている触手を抜いた。
「……っはぁ……」
 巴の身体がビクンと震える。膣からはせき切ったように、膣内にあった液が流れ出る。
「あらあら、素が溢れ出ちゃった……もっとちゃんと締めてくれないと」
 妖猫は巴の秘部を脚で踏みつけた。ぐりっぐりっと足を動かすたび、膣はその内容物を吹出す。
「駄目ねぇ……これじゃ栓でもしないと」
「ま、まさか……いやっ! やめて! そんな事したら!」
 七支が何かに気付いたのか、絶叫する。しかし妖猫の笑みは止まない。
「よそ見ばっかりじゃつまんないでしょ? ほら見て、気持ち良さそうでしょ? あなたも十分に気持ち良くなってね」
 ぐぼぉ!!
 妖猫は体重をかけて、一気に柄を巴の膣に押し込んだ。
「!!!!!」
 巴は声も出ないまま、今にもバラバラになってしまいそうなほど身体を大きく痙攣させた。
「だ、だめぇ……こんなの……あぁ……」
 幻影の七支がへたり込む。そして自分の股間を押え込んでいる。
「へぇ……やっぱり。昔から剣は男性器の象徴だっていうし、きっとあなたとリンクしていると思ったのよ。どう? その子の中は?」
「うぐぅ……く……」
 耐え続ける七支を見て、妖猫はその柄を前後へ動かしはじめた。
 グボ、ズル、ジュボ……
「ひ……いぃぃ……」
「人の質問を無視するなんて、いい御身分じゃない」
 言い終わると同時に、とどめとばかりに子宮口へぶつかり、それすらも破ってしまわんばかりに押し込んだ。途端、巴は折れてしまいそうなほど背筋を反り、そして再び身を横たえた。
「と、巴の中……熱くて……狭くて……あ、あぁ……あぁぁぁあああぁぁぁ!」
 最後の巴の痙攣に耐え切れず、七支の幻影も身を震わせ、叫ぶと膝から崩れ落ちた。
「ふ……ふふっ……これで新たな、素晴らしい巣が出来たわ。早速、連れて帰り……ん? ぐあ! ぎゃあぁぁぁああぁぁぁ!」
 今度は妖猫が叫びを上げた。それも快感のそれではない。明らかに苦痛の叫びだった。何故か突然、触手のうちの一本から激痛が走ったのだ。
「こ、これは一体!?」
 妖猫がそちらの方を見る。すると、巴の口に突っ込んでいたはずの触手が、異臭をあげながらゴボゴボと沸騰したかのように、崩れ落ちるところが見えた。
 巴の身体に刻まれた紋様……その一つ、舌に存在する『大祓(おおはらえ)』の紋様が邪の液を聖化し、巴はそれをそのまま、呼吸のために広がっていた触手の内部に吹き込んだのだった。
 そして、次のセリフが巴の口から出た。
「結・第三封! 解・第六封!」


 巴の股間の辺りにはすでに剣も七支の幻影もなく、代りに見目麗しい女性が立っていた。彼女が腕を振るうとそこからは液体がほとばしり、それが触手に当たると、さっきの巴の口に入っていたものと同じように、溶けて崩れ落ちた。
 そしてすべての触手を同じように消し去るまで、さほどの時間も要しなかった。女性は巴を見ると、それまで冷たいだけだった整った顔に心配の色が浮かび上がった。
「大丈夫、巴? 怪我はなかった?」
「ん? なんとかね。ちょっと痛かったけど、七支を…その…入れてくれなかったら、接触が出来ずに、封を変える事も出来ないまま、巣にされてたかもしれなかったんだから。文句は言えないわ。しっかし……さすがは七支の第六封『豊玉姫(とよたまひめ)』ね。浄化を司る水神の聖水と生命を司る母神の治癒を併せ持つだけの事はあるわ」
 巴の言葉に女性(巴の言葉では七支らしい)は頬を赤らめた。無理矢理とは言え、巴の中に挿入され、事もあろうかイッてしまったのだ。
「そ、そういう事じゃなくて! 腕ですよ! 折られたでしょう? 見せて」
 恥ずかしさのためか、七支は半ば強引に巴の手を取った。
「痛っ! 痛いってば!」
「それだけ元気があれば大丈夫のようね」
 巴の手に重ねられた七支の手から、再び液体がにじみ出る。しかしそれは先ほどのものとは違い、清らかさの中にも何故か暖かみを感じられた。
「ん〜〜これは効くねぇ」
「当たり前じゃない! そもそも古来から……」
 巴は折れた方の手首を動かした。全く痛みや違和感はない。
「はいはい。その話はまた今度。それより、問題はこの子よね」
 巴は気絶している妖猫に歩み寄った。表情は何故か暗く沈んでいる。
「また……あの子と同じように……」
「そうはさせたくないんでしょ? だったら、体内から浄化するしかないじゃない。中に邪が潜んでるかもしれないし」
「そうね……」
 巴は数ヶ月前に起った悲劇を思い返していた。



 巴には使い魔(と言っても、特殊な契約を交わした主従関係)がいた。妖狐の『絶間(たえま)』だ。
 ある日、いつものように邪を狩るために一緒に出かけたのだが、そこで事もあろうか、標的だった邪に、絶間が取り付かれてしまったのだ。
 我を忘れ襲い掛かってくる絶間を、巴と七支はなんとか押さえつけ、体内の浄化をしようとした。
 しかし妖物に影響がなく邪を斬る剣では大きく発達した状態ならまだしも、徐々に邪を削り小さくしてしまったり取り付かれたばっかりの未発達の状態では、体内で避けられてしまう可能性もある。
 そうなると確実に浄化するためには、体液を聖水に変化させる事が出来る豊玉姫と化した七支かその影響を受けて男性器の生えた巴が、聖水を注ぎ込むしか方法はなかった。
「嫌ですっ! お願いです。そればっかりは……」
「聞いて絶間。あたしはあなたを助けたいの。これからも一緒に戦いたいの」
 そう言う巴に耳を貸さず、絶間はただただ脅えるばかりだった。
「………ねぇ巴、この子って……」
「そう、初めてなのよ」
 七支と巴は頭を抱えた。巴にしても絶間を無理矢理押さえつけて行為に及ぶなど、絶対にしたくはなかった。
「お願いします。まだ、心の準備が……、それにきっと私の中の邪は無くなってます」
 懇願する絶間。その姿を見ると、さすがの七支も不憫に思えてきた。
「……七支、他に何か方法は無いかな?」
「聞いた事無いわね……巴の腕じゃ相手に避ける暇すら与えず、中の邪を切り刻むなんて出来ないし」
 七支の言葉に巴は頬を膨らませた。
「悪かったわね!」
「あなたのお父様は出来たわよ?」
 挑発的な言葉に七支はいきり立った。
「わかったわよ! やればいいんでしょう!? 結・第六封! 解・第……」
 封を変えようと一瞬の隙、それを絶間の中の邪は逃さなかった。爪と牙をむき出しに飛び掛かる絶間。しかし、幼い頃から戦闘の訓練をされた巴は、その気配に反応した。意識の大半が条件反射に取って代わられる。
「二封!」
 思わず口をついて出た言葉、それは……七支の中に封じられている剣の中では最強の剣……『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』を意味していた。振り向きざまに一閃……それで絶間は体内の邪と共にこの世から消滅した


 目を覚ました妖猫を巴は見つめていた。
「さっきまでの事、覚えてる?」
 声も無くうなずく妖猫。
「だったら話は早いわね。あなたの体内にはまだ、邪が巣食っている可能性がある。だからそれを浄化しなきゃいけないの」
 妖猫の顔色が青ざめる。
「お願いだから……あたし達を受け入れて……」
 妖猫は恐怖のためかひたすら首を横に振っている。
「絶間のときと同じね……どうする? 巴……」
「…………仕方ないわ」
 巴は冷たい口調でそう言うと、妖猫の方を見据えたまま、七支の方へ手をかざした。
「結・第六封。解・第二封……」
「なっ…………」
 七支が驚きの声を上げるとほぼ同じに、モーフィングのように姿が変わっていった。巴の手の中には自ら太陽光を発しているかのように光り輝く剣が握られていた。
「どういう事?」
 再び幻影と化した七支が驚きの声を上げる。
「いっそ……滅ぼしてあげるわ。中の邪も、辺りの妖物や魔物も一緒に……」
 巴はそう言うと左手で剣を天高く掲げた。
「秘剣『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』……」
 巴の左手に刻まれた『柏手(かしわで)』の紋様が力を現わし、赤い霊気が剣を包み込む……すると、以前にも増した光が上空高く貫き、一瞬辺りを照らし出した。
「草原にて火妖と樹妖に襲われた始祖が生みだした秘剣……痛みを感じる間もなく消え去れるわ。空中にいない限りは逃れられない」
 圧倒的なまでの力に妖猫は今にも気を失いそうなほど恐れおののいている。……巴が勢い良く剣を振り下ろす。妖猫は泣き出しながらも目を閉じた。
 だが何も起きなかった。巴はその剣を妖猫の頭上数センチのところで止めていたのだ。
「……結・第二封。解・第六封」
 再び七支が見目麗しい女性『豊玉姫』に変わる。
「あたしだって……あなたを消し去りたくない……チョット強引な方法だったけど、分かってくれるわよね」
 優しい言葉にうなずく妖猫。巴はその唇を奪った。七支の力で聖水と化した唾液で、まずは口の辺りから浄化しているのだ。
「……初めて……じゃないよね?」
 再びうなずく妖猫。そのまま巴はゆっくりと妖猫を横たえた。身体をずらし妖猫の性器に口を付ける。
「ん……あぁ……熱い……ぁああぁあ」
 聖と邪がせめぎあい、軽い熱が発せられる、だが、敏感な膣内ではかなりの熱さに感じてしまう。
 ぺちゃ、ぴちゃ……
 挿入しなくてはならないため、巴は丁寧に妖猫を愛撫していった。膣のヒダやクリトリスも丹念に舐めあげる。
「ひぃ……そんな……ふにゃあぁぁ」
 なおも攻め続ける巴。指を膣に挿入し、内壁を軽く押すようになぞる。舌はアナルに移動しまたも唾液を流し込んだ。
「あ! くぁぁぁあああぁぁ! もう! もう耐えられないです……お願い……入れて……」
 妖猫の懇願を聴き、巴はまず七支を仰向けにさせた。
「彼女にまたがって……アナルに挿入するの。できるわよね?」
 赤面した妖猫は言われるままに七支にまたぐと、七支のペニスを手に持ち、それを自らのアナルにあてがって腰を落としはじめた。
「ぐ……うぎゅぅうぅぅぅ」
 苦しげに声を上げる。しかし、妖猫の表情はそればかりでは無いように見えた。七支のペニスを妖猫が根元まで飲み込んだのを見計らって、巴は自分のペニスをヴァギナにあてがい、ぐぐっと中へ侵入していった。
「うわ! うわぁ! すご……ぐ、かは」
 妖猫も耐えていた。しかし巴の方も、より飲み込もう同時に反して吐き出そうとするヒダの動きに耐えていた。
「……は、始めるわよ」
 七支が何かを唱えると、巴のペニスに凄まじいまでの快感が突き抜けた。
「!!!」
 声も出ないほどの快感……それによって、巴は異常なまで大量の射精を強要された。
 ドクッドクッビュクピュル
 同時に七支も自らのペニスから精を放った。
「うにゃ……あぁぁぁぁあぁん」
 妖猫の尻尾が伸びきり身体が仰け反る。巴も射精による開放感に動きを止めたかったが、邪を追い立てるため、より奥を目指すようにズンズンと突き上げた。
 ゴボォガボォ
 突き込まれるたびに、ペニスが押しのけた液が外を目指し隙間からほとばしる。膣内もアナルもすでに空間の大半は液で満たされている。妖猫の下腹部はそれによって妊娠でもしているかのように膨らんでいた。
「く、口からも……でちゃいそう……」
 妖猫が大きく目と口を開いた。
「と、巴! 出るわよ!」
「分かった!」
 七支が呼びかけると、巴は勢い良く前髪をかきあげた。そこから現れた彼女の左目は何かの模様によってふさがれていた。急いでその模様を指で辿る巴。
「う……ごぼ……うげ……ごあぁぁぁ」
 妖猫の口から何かか溢れ出す。そのよどんだ塊こそ、邪そのものであった。
「お前は楽に滅ぼさない! 未来永劫、あたしの道具として苦しめ!」
 巴はそう叫ぶと右目を閉じ、左目で邪を見据えた。途端、瞳の奥に紋様が浮かび上がる。『鎮魂(たましずめ)』とよばれる紋様は邪を吸い込み、巴の身体の中に封印した。


「……あなた、これからどうするの?」
 用意万端、あらかじめ準備していた着替えに身を通した巴は妖猫にそう聞いた。
 再び前髪に隠れてしまっている左目だが、もう一度模様をなぞる事で封を施した。彼女自身、瞳の紋様の力は制御できないため、普段はこうして力を持った模様で封じているのだ。
「邪を追い出したばかりの身体は、邪には住み心地が良いらしいから、また狙われるわよ」
 七支も平然という。妖猫は恐ろしさとおぞましさに身を震わせた。
「どう……しましょう……」
「そうねぇ……隠れ里なら安全だけど、だからと言って妖物がそのまま入れるほど生易しい結界じゃないのよね。主の気でも纏った使い魔でもないと」
 それを聞くと妖猫は決心したように言った。
「私をあなたの使い魔にしてください! 役には立たないかもしれませんけど、恩返しもしたいんです! お願いします!」
必死の顔で言う妖猫に巴は戸惑った。
「分かってる? 使い魔になるっていうのは、決して誉められた事じゃないんだよ?」
「分かってます!」
 どう言おうが妖猫の決心は揺るぎそうに無かった。
 使い魔になる……つまり、それはある程度の自由が効く奴隷になる事に等しいのだ。それは勿論、屈辱であり、なおかつ自由なる自然から生まれいでし妖物にとっては苦痛以外の何者でもなかった。
 そういう理由もあって、巴は彼女を使い魔にする事に躊躇している。
「そうしてあげなさいな。この子もそれを望んでるようだし、何より今の巴には話し相手も必要かもね」
 七支が巴をとりなす。
 巴はじっと妖猫の瞳を見据えた。澄んだ瞳が反らしも、淀みもしないで真っ直ぐに向けられている。
 ゆっくりとため息を一つ。
「そうね……仕方ないわね」
「ホントですか? ありがとうございます!」
 巴が折れると、妖猫は明るく喜んだ。
『……あの子に似てるわね、この笑顔……』
 何度も頭を下げる妖猫を見ながら、そう思った。