ミート考

名前について

名前はミートで、ひたいには「にく」と書かれています。
「肉」と書かれているキン肉マンと、お揃いでちょっと子供っぽい、という感じでしょうか。

アレクサンドロス大王は、彼の王国の首都としてアレキサンドリアという都市を建設しました。エジプト第二の都市です。アレキサンドリア・ミートの「アレキサンドリア」はここからでしょう。
そこにある図書館が、アレキサンドリア図書館です。
『キン肉マンII世』のタッグ編でチェックが言ったとおり、古代の図書館は昔、焼失したんですが、現在は新しいアレキサンドリア図書館が立てられています。

関連のありそうなメルヒェン

バラバラ事件

主人公がバラバラに切り刻まれる話は、神話やメルヒェンにときどきあります。
たいがいは妻や母親が、バラバラになった夫や息子を生き返らせます。『ハンガリー民話集』の「森の葉かげで生まれた子ども」には、少女が恋人を生き返らせる場面があります。

さて馬が到着して袋をおろすと、なんと、ヤーノシュは袋の中で切り刻まれていた!
少女は袋からヤーノシュを出して、次のようにした……ヨルダン河の水の入ったかめがあったので、それを持って来た。それから交換して来た小豚を一匹持って来て、両方とも並べて置いた。少女はばらばらの身体を集め、足りないところは小豚を斬り刻んで足した。小豚はヨルダン河の水を丁寧に注ぐと、ヤーノシュは生き返った。
「ああ、すっかり眠ってしまった!」
「あたしがやらなかったら、永遠に眠っていたかもしれないわ。ほんと、あたしがやらなかったら、永遠に眠っていたのよ!」
ハンガリー民話集

死体を切り刻んで鍋などで煮ると、生き返るという話の最も古くからあるものの一つはギリシア神話のメーディアでしょう。

彼女はそこでペリアースの王宮に赴き、王の娘たちに彼を薬を以て若返らせてやるからと約束して、父を細々に切り裂いて煮るように説いた。そして信用されるために牡羊を八つ裂きにして煮て仔羊にした。
ギリシア神話

メーディアと同じく、『フランス民話集』 の「緑の山」の悪魔の娘も同じ魔術を使います。主人公の男は、悪魔の娘にそうするように言われて、女の骨をはしごにするために、鍋で彼女を煮て、骨を取りだし、はしごとして使い、再び鍋で煮て生き返らせます。
「緑の山」では、男が女を生き返らせますが、死と再生を司る魔術師は、女の方であることに変わりはありません。メーディアの話と「緑の山」については、悪魔の娘でも触れています。

バラバラになった死体を拾い集めるという話は、エジプト神話のイシスとオシリスが有名でしょう。だいたいこういう話です。

オシリスは兄弟のセトに、生きながら棺に閉じこめられ、ナイル河に流されました。オシリスの妃であり、妹であるイシスはその棺を探し出して引き取りました。それを知ったセトは、今度はオシリスの遺体をを14に切断してばらまきました。イシスはその断片を求めてあちこちを放浪し、息子の助けを借りてオシリスを生き返らせました。そしてオシリスは死者たちを支配する神ともなったが、死んでまたよみがえる神としても尊崇を集めました。参考『エジプト神 イシスとオシリスの伝説について

このように、男である主人公が切り刻まれるが、彼を愛する女の手で再生する、というのは神話やメルヒェンのひとつのパターンです。

ただ、ミートの話には色々とこの手の伝統的なパターンから、外れるところがあります。

1 ミートが生き返ることに何の説明もない。
2 主人公のキン肉マンとミートの関係は、父と息子のような関係である。
3 ミートがバラバラにされるのは、殺害ではなく人質にするのが目的である。

なんでバラバラになったミートの体を、つなぎ合わせるだけで生き返るのかは、説明されていません。
ここに「命の水」や「魔女の大釜」は登場しないのです。

それとこの話が男同士の話だということです。
前述のように、魔力を持った女の手で、男が蘇るのが典型的なパターンです。

男同士だと、「主人公の兄や子分が、魔物に食われるが、主人公が魔物を倒すと、兄や子分たちは生き返る」というパターンがあります。

具体的には、『日本昔話100選』に収録されている「力太郎」や「なら梨とり」や『グリム童話』の「七匹のこやぎ」のように、お腹の中で相手が生きているパターンです。

シベリア民話集』には「三人の息子」という「魔女が生き返らせる」と「腹の中から出てくる」のパターンの複合したような話が収録されています。

主人公の兄が魔女の使う獣に食われてしまい、獣に勝った主人公が、獣の腹を割いたら、骨と肉になった兄たちが出てきた、主人公は魔女を殴りつけて、兄たちを生き返らせる方法を聞き出した。そういう話です。

ですが、これらは『キン肉マンII世』の、悪魔の種子編の「万太郎が、悪魔将軍の再生を阻止すると、スカーやケビンが生き返る」というのと、同じ様なパターンではあっても、ミートのパターンとは違う気がします。
上記で例にあげたメルヒェンの兄や子分は、戦って敗れた男です。ミートはそうではないでしょう。

ミートの場合に重要なのは「人質となる」ということでしょう。そしてそれが戦いの目的になるのです。

若い娘が拉致されて、勇者が助ける話は枚挙に暇がありませんが、魔物が若い娘をさらっていくのは、食ったり嫁にするためです。
ミートのように「おまえのベルトと交換だ」とかいうのは、珍しいでしょう。現代の誘拐事件で子供をさらって、親に身代金を要求する、そういうドラマでもよくあるパターンが、ミート君バラバラ事件に影響しているのではないでしょうか。
逆になんでこういう「児童誘拐」パターンが、昔話にないかというと、現金を貯金している親など昔は、ものすごく少なかったのです。
昔の日本では、米で年貢を納めていた位で、むしろ貧すれば、親が子供を売ったのです。
ですから人さらいは、子供を人買いに売り飛ばした方が、手軽で儲かったのです。そんな時代に子供を人質にして、親に何かを要求する話が少ないのは、当然でしょう。

それから、ここには『ウルトラマン』など、特撮番組の影響があります。彼らは少年を守るヒーローとして、活躍しました。戦後の特撮番組のヒーローが子供にとっての頼もしい父親に偏った理由は、敗戦や企業社会と関係あるのかもしれません。


初出2007.3.17 改訂2007.3.17

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