『おーい!!マンガだよーん』 感想

ゆでたまご先生の短編集『おーいマンガだよーん ゆでたまご短編集 』の感想です。

「喰いだおれ野郎」

グルメな主人公が、レストランの息子とお弁当対決をする話。絵柄はなんとなく『おぼっちゃまくん』に似ています。

主人公は、金持ちらしく、「ヴィトン」のスーツというものを着ています。

ルイ・ヴィトンはカバンのメーカーで、服は作ってないですよ。
ギャグのつもりなんですよね。もしかして、本当に知らなかったってことは……。

食べ頃がどうこうという、「ミスター味っ子」あたりで聞いたようなテーマの話です。
ここで登場するお弁当の材料は、イセエビとかタカアシガニとか、イカとか、トリュフとか、松葉ガニとか、ニワトリとか、レバー、フォアグラ、マス、スモークサーモン、サーロイン等などです。まさに「肉と魚介類のかたまり」みたいな感じで、ゆでたまご先生の肉食趣味をつくづく感じます。
新鮮で高級なお肉とお魚がたくさん食べられれば、幸せ、という人は「グルメツアー」の良い客ではあっても、グルメではないと思います。

『キン肉マンII世』を読んだときもなんとなく思ったんですが、ゆでたまご先生って、自分ではほとんど料理しない人のような気がします。料理できる人が、牛丼を貴重というわけがありません。「週刊プレイボーイ」の読者の大半が、それに違和感を感じない男性達でしょうから、間違っているとはいいません。

数多くの料理漫画が「料理のコツ」を伝えて、読者を引きつけてきました。
「ほんの一工夫で、いつものお弁当がこんなにおいしく」というような料理漫画や料理番組は、定番的な人気を持っています。
おいしそうに料理するのが、料理漫画です。おいしそうに料理を食べるのが、料理漫画ではありません。後者の意味でのグルメ漫画だったら、ゆで先生に向いていたかもしれません。

『キン肉マン』の牛丼はおいしそうとか、『キン肉マンII世』の串カツはおいしそうとか、読者の感想として、よく聞きますから。
 

「あすとろボーヤ」

宇宙人と地球人の息子が活躍するギャグまんが。ふしぎな能力を持つ主人公が、ダメな友達を助けるという、割合ありそうなパターンです。プロレスおたくの孤独な非力くん(この名前はとてもストレートですね)が、初めてできた変な友達を助けようとする話(一話目)と、そのおたくな友人を主人公が助けようとする話(二話目)が収録されています。ちょっといい話です。

「キン肉マンスペシャル」

ロビンが主人公の作品が描きたかったゆで先生が、ロビンが人質になる短編を描きました。倫敦の若大将編は、実は構想十数年の作品だったんですか。ブロッケンJr.があきらめない精神で活躍します。主人公の欠点を知る人物が、人質になるというのは『闘将!! 拉麺男』でもあった話です。ゆでたまご先生は、磔をよく描きます。普通、磔にされた人質を助けたら、真っ先に、十字架から下ろすと思うのですが、敵に勝った後、磔にされたままのロビンをキン肉マンが引きずっているのは、「ゴルゴタを背景にしたキリスト」 風なんでしょうか。キリスト教圏の宗教画では、よくあるテーマです。

 

「デスゲーム」

ブルースリーに捧げられた作品。リーに似た格闘家が次々とどこかで見たような格闘家を倒していくという、短編作品。まあ、肉世代には懐かしいかもしれません。これでゆで先生の中で「塔に昇って敵を倒す」というパターンが、確立したんでしょうか。

 

「勇者ビッグボディ」

『どろろ』を見習った作品でしょう。体の各部分を奪われた主人公が、手足を4体の妖怪から取り戻す話です。主人公の容姿は、バイオレンスジャックによく似ています。
妖怪が子供の血を吸ったり、子供が倒された妖怪の血で生き返ったり。

この作品の特筆すべき点は、エンディングの一文でしょう。

「この世に 神聖なる物があるとすれば それは人間の肉体である」

……まさに呪物崇拝ですね。
フェティシズム。

この場合の「肉体」とは、「男性の肉体」のことです。
女性の肉体ではなく、男性の肉体に対する拝物愛のある作家が、どうして週刊プレイボーイで連載しているのか、ちょっと不思議です。

ちなみにこの作品の「天国の一分は地上の一年」は、『アンデルセン童話集 4』の「沼の王の娘」にもあった設定です。これは天国での三分間の間に地上では、数百年もたったという話です。『日本霊異記』では、天界での一日が地上の一年という話があります。そういうの、どこから耳にいれるんでしょう。

勇者にしか抜けない剣は、有名なアーサー王の伝説です。地面じゃなくて、木に刺さっていたら、ジークフリード伝説の方ですが、地面なので、アーサー王です。

 

「下町戦争」

『ゴッド・ファーザー』のパロディ作品。元の作品を知らなくても大丈夫ではありますが、知らないとわかんない場面が多いです。テンポのいい貧乏ネタと、最後のちょっと悲しいオチが印象的でした。デビュー直後からいきなり「才能を見込んだ弟子に裏切られて、落ちぶれたおじさんが過去の栄光を懐かしむ話」を描くゆでたまご先生。『キン肉マンII世』に、そういう話が何度も登場するのは、別に作家本人の浮沈がどうこうってだけでもなさそうです。
始終手を洗うのは、有名すぎる『マクベス』のネタ。

読み通して

個人的に、「あすとろボーヤ」で、主人公の父親役(デリカ)、デスゲームで主人公の従者役(コルレオーネ)、「下町戦争」で主人公(ピカーデリカオーネ)として登場し、「キン肉マン」でカレクックに「わたしの牛丼を返しなさい」と言ったなぞのおじさんに、何か元ネタがあるのかどうか、気になります。
スターシステムなのか、違う役で同じ顔なんです。


初出2007.3.22 改訂2007.4.7

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