ぐるぐる考

『キン肉マン』や『闘将!! 拉麺男』に登場する、人力でぐるぐるまわす謎の機械について考察します。この機械、最近は、『脳噛ネウロ』にも登場していました。

石臼説

超人墓場で、キン肉マンとウォーズマンがまわしているものは、おそらく石臼です。
多くの日本人は、石臼というと抱えてまわす、小さなものしか思い浮かばないでしょう。それは我々が米を粉にして、パンなぞ焼かないからです。
米は精米して焚けば、それで美味しい。我々の日常の食事です。
しかし、毎日パンを食べる民族は、小麦や大麦を大量に粉にする必要があります。
それが家畜や奴隷の労働で、まかなわれた時代がありました。
家畜や奴隷にひかせる石臼は、大きなものでした。その方が効率がいいのです。
西洋の「神話の時代」は、「奴隷に石臼をひかせた時代」でもありました。
その後、水車や風車で、大きな石臼をまわし、粉をひくようになりました。現代に残る西洋の童話や民話は、水車や風車で粉をひく世界の物語です。
現在は、主に電気で麦を粉にしています。

古代の北欧の口承詩である、「エッダ」には、時々石臼と奴隷を関連づけた表現が登場します。
例えば、ヘルギという王子は、追手の目をごまかすために、女奴隷の服を着て、粉をひきにいきます。

「勇士が大麦をひかなくてはならんとは、ひどい目にあったな。その手は石臼の柄よりも、剣の柄の方に似つかわしかろうに」
『エッダ』古代北欧歌謡集より

状況的にキン肉マンに近いのは、不死身の英雄でも紹介した、英雄サムソンでしょう。千人の男をろばの骨一本で打ち倒すほどの怪力を誇った彼は、愛した女に裏切られて、敵の手に落ちます。

そこで、ペリシテ人は彼をつかまえて、その目をえぐり出し、彼をガザに引き立てて行って、青銅の足かせをかけて、彼をつないだ。こうしてサムソンは牢の中で臼をひいていた。
『旧約聖書』の「士師記」より

『旧約聖書』と『キン肉マン』では、牢獄とは石臼をまわすところです。

これらの西洋の英雄伝説を参考にするのなら、ウォーズマンは超人墓場で、一生懸命小麦粉を作っていたと考えるのが、妥当でしょう。
たぶん、地獄の鬼どもがたこ焼きやお好み焼きやきつねうどんを食うために、小麦粉が必要だったのでしょう。ひきたての小麦粉で作ると、きっとうまいんですよ。

巻き上げ機説

しかし、『キン肉マン』の作品中には、「超人墓場で死んだ超人達がまわしている、あれは製粉のための石臼である」ということを証明するような描写は一切ありません。形は、一応石臼形です。ですが、上にロープのようなものがつながっているので、「巻き上げ機」という可能性もあります。巻き上げ機というのは、回転させることによって重いものを引き上げる機械のことです。昔は馬力や人力で動かし、鉱山で掘ったものを地上に引き上げるのに使われたりしました。現代では、電動の巻き上げ機が、エレベーターなどに使われています。後ろで、もっこをかついでいる超人がいますので、超人墓場を広くするため、穴でも掘っているのかもしれません。

巻き上げ機は、西洋のガレー船(奴隷が漕ぐ船)でも、荷物の引き上げに使われていました。昔の帆船で、巻き上げ機やポンプを動かすときはひたすら棒を押して歩きました。こういう奴隷や罪人が漕ぐ船では、奴隷が怠けると操船指揮官は鞭や綱で、奴隷を容赦なく打ちました。参考1700年頃のフランスの戦闘ガレー船

『闘将!! 拉麺男』の「狂悪の子どもたち!!の巻」では、これははっきりと「巻き上げ機」でした。「人力でまわす機械は、ベルトコンベアにつながっていて、船に荷物を積み込むのに使っている」という、現代的な設定になっています。

おそらく西欧の古い社会を舞台にしたハリウッド映画の、「敵に捕らえられ、奴隷となった勇士が、石臼か巻き上げ機をまわさせられる」場面が、ゆで先生の印象に強く残っていたのでしょう。

蒸気機関や電動機械の出現以前の世界のような奴隷労働は、キン肉マン世界の敗者の定めなのです。


初出2007.6.10 改訂 2007.12.17

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