地球の鍵穴考

この文書では、『キン肉マン』で「地球の鍵穴」とされる前方後円墳について、考察します。

地底世界について

それでは、『キン肉マン』のタッグ編から、テリーマンの台詞を引用しましょう。

そして 肉体を失ったオレは 土に かえり 死の世界へと おちていった 
そこは炎が 吹きあれ 溶岩がとびちる とてつもない 場所だった!
「こ…これが 地獄というものか!!」
「いや そうじゃない これは なにかの エネルギーの 工場のようだ!」
オレは それらの炎や 溶岩が 天上高く 一定方向に 噴きあげられているのに 気がついた!
「あの形…… どこかで みたような」
「そうだ 日本の大阪でみた 仁徳天皇の お墓の形だーっ!!」
キン肉マン (12)』文庫版

地下への穴と言えば、たいがいの場合、あの世への入り口です。この時点では「超人墓場」の設定はありません。地下に「もうひとつの世界」があるとする、神話的常識と、地下には地球のコアがあるという科学的知識が、なんとなく混ざってこうなったんでしょう。「地表で観測される磁場は、その大部分が、地球のコアに流れる電流に起因する。」のですから、「マグネットパワーは地球のエネルギーだ(地下に磁力の源がある)」という発想自体は、科学的に正しいです。

また、テリーマンが臨死体験の際に見たのは、キリスト教的に考えれば、地獄でしょう。キリスト教圏では、多くの場合、地下に地獄があると考えられ、火山はその入り口とされました。そして地獄は火が燃えて、硫黄の臭いの立ちこめる世界です。

『新訳聖書』の黙示録から引用しましょう。

そして、彼らを惑わした悪魔は、火と硫黄の池に投げ込まれた。

ダンテの『神曲』では、ダンテは、くらやみの森の奧の高い山の穴の中に入り、地獄にいくことになっています。

もしも、ゆでたまご先生が那須や阿蘇などの火山地帯の出身でしたら、火山である富士山の噴火口をふさぐ展開になっていたかもしれません。もっとも、鍵穴は「鍵を入れる穴」という前提があるからこそ、「鍵穴があるなら、鍵を突っ込めばいい」という、テリーマンの発想がでてくるわけでもあります。

仁徳天皇陵について

ゆでたまご先生の出身地である、大阪という土地は、古代遺跡の多い土地です。
1300年程前、大阪には仁徳天皇という王がいて、この地に王宮をかまえ、夢で神のお告げを聞き、民である男を人柱にし、鍵穴形の大きな墓に葬られました。彼の墓と言われる古墳が日本最大の古墳であり、『キン肉マン』のタッグ編でその名前が出てくる、仁徳天皇陵です。飛鳥・奈良時代から栄えた、大阪には古墳がいくつもあります。前方後円墳の分布については、デジタル古墳百科(堺市のサイトの一部)を参照。
『古事記』『日本書紀』、『日本霊異記』にも「浪速」の地の名はよく登場します。
逆に東京の土地の名前は、ほぼ出てきません。千年前は田舎ですから。大阪は日本神話の舞台なのです。
そういう地域の神話や伝説の上に、個人的信仰というものはなりたっているのでしょう。もしも、ゆでたまご先生が京都や東京、北海道や沖縄に生まれ育っていたら、『キン肉マン』に登場する、遺跡やその使われ方は、ずいぶんと違ったものになったでしょう。

ただ、王の墓である古墳はものとしては、ピラミッドです。穴じゃなくて、山なんです。大阪には山らしい山はなく、千数百年前、高床式の宮殿よりも高い建物はなく、古墳は「高い」ものでした。私達が現在目にする古墳の姿は、たいてい航空写真です。高所からの写真で古墳を見ると水と木に覆われた仁徳陵古墳は、都市の風景の中でそこだけ黒いですが、昔は木なんて生えていなかったのです。昼間、森と化した大きな古墳の側に立ってみたら、それこそ暗い別世界への入り口にしか見えないでしょう。古墳が『キン肉マン』で、「天へと続く、山」ではなく、「地の底へと通じる、穴」と見られるのは、ゆでたまご先生が現代人だからです。

大阪には森が少ないです。大阪にある緑は、大阪城公園とか、万博記念公園とか、管理されたものばかりです。大阪にあるものは、商業ビルと下町と公共建築物と電車と河と港と寺社と古墳です。どこまでいっても人工の風景で、「自然」はないのです。こういう歴史があって、自然がない大阪が、「都会と遺跡」のキン肉マン世界の風景の元でしょう。

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初出2007.11.26 改訂 2007.11.26

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