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 虚構と空想と実像の狭間で・・・  〜赤い天使の物語より〜 書いた人:北神的離

序章
「ここは、様々な想いの交差する場所。
 数々の物語がここから生まれ、また消えていく。
 人々の思いを輝かせる為に、
 人々の思いを貪り喰らうように、
 栄光と挫折、光と影、それらが様々に交じり合い、
 この世界を構築していく・・・
 
 はぁい☆お久しぶり!みんなのアイドル、フェリア・D・ラティオでーす☆
 あたしねぇ、ラティス国最大の劇場、サン・ティルーズ劇場にいるの。
 え?何をしているかだって?
 うふふ、それはね・・・」


 序章 

 世界の中心に位置する大国テフレニルの西の小国ラティス国・・・
 繁華街の一角を、一組の若い男女が歩いている。
 男は20歳前後の金髪・長身の青年、女は12、3歳と思われる金髪の美少女。
 この2人の名と称号を聞けば、恐らく道行くもの全てが道を譲り、身に覚えのある悪人は、慌ててこの地区から逃げ出している事だろう。
 青年はラティス国騎士団遊撃隊筆頭レヴィン・コルティア。
 少女はラティス国騎士団特級騎士にして超一流貴族ラティオ家のご令嬢、フェリア・D・ラティオであった。

 この2人、先のテフテニル・ラティス両国内の魔物大発生事件を沈静化するという、多大な戦果を上げている。
 後にこの事件はテフレニル国を混乱させ、内部崩壊を狙ったユディール国の仕業である事が発覚し、テフレニル国は報復を開始。
 窮地に陥ったユディール国は、戦局を立て直す為、魔王を復活させると言う暴挙に出て、世界滅亡の危機に陥る事になる。
 後に『封魔戦争』と呼ばれる戦争のきっかけとなったこの事件は、『封魔戦争前哨戦』と呼ばれ、ラティス国の歴史に数少ない戦争の記録として書き記されるが、それはまた別の話。

 しかし道行く人から見れば、2人は仲睦まじいとは程遠い兄妹程度にしか認識されていなかった。

「・・・何であたしがあんたなんかと一緒に行動しなくちゃいけないのよっ!」
「それはこっちのセリフだ。」
 
 2人は、上官のラティス国宮廷魔導師兼騎士団参謀のミゼット・ファラクから、ある任務を命ぜられた。
 ラティス国は、本来平和な国である。
 しかし、どんな平和な国であろうとも、犯罪と言う物は滅多に無くなるものではない。
 最近国内で暗躍している人身売買組織の摘発、これが今回の二人の任務であった。
 年頃の若い男女ならば、夜の街を徘徊していてもただのカップルにしか思われない事だろう、という理由で決まった人選だったのだが、年が離れすぎていて、どう見ても兄妹である。

「あーあ、何であたしが、こんな事しなくちゃいけないのよ・・・。」

 大きく伸びをしながら、フェリアはなげやりげに呟く。
 しかし、その本心は人身売買組織への怒りに燃えていた。

 数ヶ月前、彼女は盗賊団に捕まった事がある。
 その時、盗賊の一人に人身売買組織について少し聞かされ、興味本位で独自に調べた事があった。
 城の薄暗い資料室の中で、それに関する資料を次々と読み漁るフェリア。
 その組織の内情は、彼女の想像を遥かに上回るものだった。
 捕まった少女は、雇い主の命令に絶対服従させる為、ありとあらゆる調教を受ける。
 その過酷さはかなりのもので、調教中に精神崩壊を引き起こしたり、中には命を落としてしまう者も少なくないという。
 また、雇い主の求めるものは、精神的改造だけでは無い。
 中には、身体的改造を求める雇い主もいる。
 身体的改造を受けた少女を緻密に模写した資料が文献の後半にあったが、彼女はページを2,3枚めくった直後、口を押さえながら洗面所へと駆け込んだ。
 こんな組織、絶対につぶしてやる・・・
 吐瀉物で汚れた口をゆすぎながら、フェリアは堅く決意したものだった。

「そうだ、久しぶりにアイルさんの所に寄っていかない?」

 フェリアはある欲求に駆られ、提案する。

「何であいつの所なんかに・・・って、おい、引っ張るな!」
「いいからいいから・・・あっ、ここだ。」

 着いた先は、ごく普通の一軒の食堂。
 フェリアは、レヴィンを引きずりながらのれんをくぐる。

「へい、いらっしゃい!・・・って、何だ、お前等か。」

 店のカウンターには、茶色の髪の青年が包丁を手にしたまま落胆したように呟く。

「まったく、客が来たと思ったら・・・冷やかしなら、さっさと帰りな。」

 彼の名はアイル・シェロン。レヴィンの悪友で、かつてラティス国の仕官学校でレヴィンと首席の座を争うほどの優秀な成績を誇っていたが、その後食の道に目覚め、小さな食堂を開き、細々と生活している。
 封魔戦争前哨戦では、レヴィン達に無理矢理駆り出され、素晴らしいまでの活躍を見せるが、その後数々の仕官話を断り、元の食堂を再開し、現在に至る。

「アイル、そんなこと言わないの。レヴィン、フェリアちゃん、お久しぶり。」

 店の奥から、ウエイトレス姿の10代後半の綺麗な少女がお盆を持ってやってくる。
 彼女の名はルーティナ。
 端正な顔立ちに、栗色の腰まである髪が良く映える。
 しかし、彼女を最初に見た者は、その顔ではなく、後ろに目が行ってしまう。
 彼女の服の背中の部分は一部切り取られ、そこからは大きな翼が生えている。
 そう、彼女は人間ではなかった。

 ラティス国は、三方を海に、残る一方を険しい山脈に囲まれている言わば陸の孤島で、太古の自然がそのままに残されている。
 そこにはかつて、ほかの地方では見られないような様々な動植物が数多く生息していた。
 彼女もその一つ、有翼人種『ハピューリア』である。
 ハピューリアはかつて、この陸の孤島で生態系の頂点に君臨していたが、その座は200年前、この地に移住して来た人間と言う種族に奪われた。
 その容姿の美しさから観賞用奴隷として乱獲され、数十年前、事態を重く見たラティス国政府が保護条例を出した頃には時既に遅く、まだ開発されていない森林地帯の奥に一部族を残すのみとなっていた。
 さらに追い討ちをかけるように封魔戦争前哨戦で発生した魔物達の襲撃に遭い、彼等はその数を更に減らし、現在では彼女を含めてわずか数人が生き残っているのみとなっている。
 彼女はその少数種族の数少ない生き残りである。
 一族の仇を討つ為にレヴィン達に協力。なぜかアイルに惚れ込み、戦争終結後は彼の食堂の仕事を手伝っている。

「こんにちは、ルーティナさん。焼肉定食一人前お願い。」

 フェリアは早速注文する。
 彼女を現在突き動かしている欲求、それは食欲・・・
 実は朝から何も食べていなかったのだ。

「はい毎度!アイル、焼肉定食一丁!」

 ルーティナは大きな声で注文を伝える。すっかりウエイトレスが板に付いた様だ。

「はい毎度!」

 アイルの表情がぱっと明るくなり、早速調理に取り掛かる。
 また戦に駆り出されるのでは無いかと不安だったのだが、どうやらその心配は無さそうだ。
 肉をテンポ良く切りながら、レヴィンに問い掛ける。

「お前は何にするんだ?」
「水。」
「帰れや、お前。」

 あきれるアイルに対してレヴィンは無視するようにそっぽを向き、一瞬後、そこで視界に入った物体に驚愕する。

「お、おい、アイル!こ、これ!!」

 レヴィンの視界の先には、槍状の奇妙な武器が掛けられていた。

「ああ、インテリアに丁度いいだろ?」

 アイルはそっけなく答える。

「丁度いいって、これ、『トゥールハンマー』じゃねえか!」

 封魔戦争前哨戦の最後の舞台は、テフレニル国との国境付近にある古代遺跡だった。
 そこには、有史以前に栄えていたと言われる古代帝国の遺品が数多く眠っていた。
 このトゥールハンマーもその一つで、古代帝国の要塞都市イゼノレローソで開発され、この武器で対立国の侵攻を6回に渡り妨げたと言われている。
 引き金を引くことで、先端に取り付けられた青い宝玉から雷撃を打ち出し、敵を一掃することが出来る射撃系の武器である。

「ああ、いいだろ、これ。最近じゃ、物珍しさにやってくる客も増えたし、泥棒除けにもなるしな。この前も店に強盗が入ったんだが・・・」
「市街地でぶっ放すんじゃねえ!」

レヴィンはアイルを怒鳴りつけ、自分のこめかみを押さえる。
 かつて古代帝国最強と謳われた破壊兵器が、まさか有名人のサインや力士の手形と同列に扱われるとは、古代人も想像すらしなかった事だろう。

「はい、お待ちどうさま。・・・で、ここに来た理由、ご飯を食べに来ただけじゃ無いんでしょ?」

 ルーティナは、焼肉定食をテーブルに置くと、フェリアに問い掛ける。

「いっただっきまーす!もぐもぐ・・・うん。実はね・・・」

 焼肉定食の味を堪能しながら、人身売買組織の摘発の任を受けた事を手短に説明する。

「おいおい、まさかまた手伝えとか言うんじゃ無いだろうな。」

 話を聞いていたアイルが、心底嫌そうな表情で尋ねる。

「大丈夫よ。今回はあたし達だけで何とかするから・・・。ところで、ここら辺にいかにも怪しそうな施設とか無いかしら?」
「そういう事は、情報屋で聞きな。うちは食堂だぜ。」

 フェリアはふう、と溜息をつくと、
「あのねぇ、少し調べればすぐに素性の判るレヴィンや、あたしみたいな清楚で可憐な美少女が情報屋なんかに入り浸ったら、一発で怪しまれちゃうでしょ。あなたをかつての戦友として信頼しているから聞いてるのよ。」
「そうか・・・。」

 『清楚で可憐』という部分には同調しかねるが、確かに彼女にも一理ある。

「悪いが、本当にそういった情報は聞かないな・・・。だが、機会があったら、少し探ってみるさ。」
「そういう事なら私も協力するわよ。こう見えても結構顔広いんだから。」
 言うと、ルーティナは胸を張る。
「ああ、それはいいが、お前が捕まるなよ。」

 絶滅寸前の動物で、しかも美形となれば、その筋の人々が狙うのは目に見えている。

「大丈夫よ、安全に情報を収集できる場所、知ってるんだから。」

 ルーティナは、再び胸を張った。

 歓楽街・・・
 レヴィンとフェリアは夕日を背に受けながら歩いている。

「あーあ、今日は結局収穫無しか・・・。」

 レヴィンは手を頭の後ろに回しながら、ぼやいている。

「まあ、初日だしね、気長に行きましょ、気長に。」
「そうは言ってもなぁ・・・こうやって街中をただうろついていても、どうしようも無いんじゃねえの?ここはひとつ囮捜査・・・」
「だめよ、アイルさん怒るから。」
「誰がルーティナを使うって言ったよ?使うのは・・・」

 言いながら、フェリアの胸元を見、次の瞬間がっくりと肩を落とす。

「・・・だめだ、こいつじゃ。性格悪いし、胸無いし。」
「うるっさいわね!!」

 ごきぃ

「うぐっ!」
 フェリアの肘打ちがレヴィンの鳩尾に決まる。
「ってえー・・・何しやがる、フェリア!!」

レヴィンは目にうっすらと涙を浮かべ、鳩尾を両手で押さえながら、フェリアを睨み付ける。

「つーん。レヴィンなんか嫌いだぁ!・・・あたしだって後2年もしたら、胸おっきくなるもーん。その時になって付き合って欲しいとか言ってももう遅いんだからねー!」

言うとフェリアは1歩飛び退き、レヴィンに向き直るとべえっと舌を出す。

「な・・・」

 フェリアの言葉に反論しようとした口を閉じ、1軒の店に目をとめるレヴィン。

「はーい、そこのおにいさん、少し寄ってかなーい?」

 店の前で『いかにも』といった感じの豪華に着飾った女が手招きしている。
 ふらふらー・・・
 レヴィンは、まるで催眠術に掛かったかのように店に入ろうとする。
 がしっ
 その裾を掴むフェリア。

「レヴィン、何処に行くのかしら?」
「い、いや、その、何だ。ちょっと情報収集に・・・。」
「どこが情報収集よ、さ、行くわよ!」

 フェリアは、レヴィンをずるずると引きずって行く。

「あらぁ、来てくれないのぉ?残念ね。今度は妹さん抜きで来てねぇ☆」
『妹違う!!』

 女の言葉に、同時に反論する2人であった。

 ぴた
 フェリアはある建物の前で足を止めた。

「・・・ちょっと寄って行きましょう、レヴィン。」

 落ち着かない様子でレヴィンの裾をぐいぐいと引っ張りながら、その建物を指差す。
 サン・ティールズ劇場
 建物の看板には、そう書かれていた。

「おいおい、俺達は任務の最中だろ?こんな所に寄っている場合じゃ無いだろう。」

 正論だが、先程娼館に寄ろうとしていた男に言われたくは無い。

「いいからいいから。どうせこれ以上街中をうろつき回っても結果は同じよ。少しは息抜きしましょう。」

 フェリアはレヴィンを引きずるように、って言うか本当に引きずりながら劇場内に入っていった。

 この行動が今回の事件の解決への第一歩となる訳だが、それがフェリアの常人離れした直感によるものなのか、はたまた只の偶然か、それを知る者はいない。 


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