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 鉄血戦隊ファシズマン    著者:NAZ

三国軍神合体不能(前編)
床一面を白い霧が重苦しく覆ったほの暗い空間。見渡す限り霧と暗闇が地平線のように続いており、天井や壁が存在するのかもはっきりわからない。
どんな役割を持っているのか見当もつかない奇怪なオブジェに囲まれた中、3体のオーガビーストが、憎悪の表情を浮かべて巨大なモニターに見入っていた。
うねりくねった脈紋に縁取られ、四隅に骸骨をあしらったモニターには、先のファシズマンとゴーグレンの戦いが映し出されている。
「ブリザードゴールともあろう者が、巨大化してまで敗れるとは‥‥」
老人を思わせる痩せさばらえた皺だらけの体に、白いざんばら髪のオーガビーストがつぶやいた。
「ファシズマンめ‥‥ええいもう我慢ならん、俺が出る!」
角や牙を生やした筋骨逞しいオーガビーストが、牙をむき出して怒声を上げた。熊と見紛うばかりの巨大な体躯だけあって、その声量も震動を肌で感じられるほどである。獣じみた顔とあいまって、咆哮する様はまさしく地獄の鬼そのものだ。
「お待ちダークリント。あなたに何か、奴らを倒す策でもあって?」
挑発的なきわどい鎧を着た女性型オーガビーストが、血気にはやる巨漢を引き止めた。威圧的ではないが、鼻につくような嫌味っぽい態度で、傍目には喧嘩を売っているようにも見える。
「策だと?ふん、小細工などいるか。物量で押せば叩き潰せるわ!」
「愚かな‥‥‥問題はこいつよ」
女性型オーガビーストは腰に携えた細身の剣を抜き、モニターに移った三国軍神を指し示した。
「この戦闘ロボを押さえぬ限り、力押しでは勝てないわ。決して、ね」
「ぬぐ‥‥‥ならばどうしろと言うのだ!早く我等に楯突く人間どもを血祭りに上げねば、デモクラウス様に申し訳が立たん!」
的を得た指摘を受けて立場が無くなったダークリントは、再び大声を上げて苛立った。
「わしに良い考えがあるぞ」
痩せさばらえたオーガビーストが、片眼鏡を左手でいじりながら、2体の間に割って入ってきた。
「スカイメッサー、ランドタイガー、Uマリナー。この3機が合体し、似て非なる3つのエネルギーを融合させる事によって、更に純化された極右力を生み出す反応経路を確保し、凄まじいパワーを発揮する。敵ながら上手く考えて作ってあるわい」
「‥‥‥?何が言いたいプルトシラク。忌々しい敵のロボットなんざ誉めるんじゃねえ!」
ダークリントの頭の悪さに苦笑を漏らしつつも、侮蔑をあからさまに表に出すことはせず、プルトシラクは続ける。
「まあ短気を起こさず最後まで聞けい。エネルギー統合によって生まれる相乗効果は驚異じゃが、それが三国軍神のアキレス腱でもある。すなわちパイロットの一人でも亡き者にしてしまえば‥‥‥」
薄暗がりに、片眼鏡を妖しく輝かせ、怪人は邪悪な笑みを浮かべた。


「見たまえ諸君。これがここ数日立て続けに起こっている、小学生失踪事件の発生ポイントだ」
スクリーンに映し出された街の地図と、その上に数個存在する赤い点を示し、鉄血戦隊長官、布施定宗は3人の若者に向き直った。年齢は40を超えるが、気力のみなぎった鋭い眼光には老いなど微塵も感じられない。もともと長身な上に背筋を伸ばし、広い肩を張り出したその姿には風格が漂い、上級士官用の制服が何の違和感も無く似合ってしまう。
「発生時刻はまちまちで、現場に共通の特徴も見られない。人目のある場所にもかかわらず気がつくと消えていた、という例もある」
司令室に集まった3人の若者は私服で、暇を持て余す大学生のようなラフな格好である。ただ、ともすれば威圧感すら伴う布施長官の視線を、真っ向から受けとめる彼らの表情の凛々しさは、気の抜けた学生には似つかわしくなかった。
「次の発生地点を予測する事は出来ないんですか?」
レッドバルカンこと哲也が、活動条件の確認のため長官に問いかける。
「絞り込んだ結果、エリアA6、B3、D1のいずれかの可能性が高いと思われる」
コントロールパネルを操作する布施長官。区画分けされた地図が、3つのブロックを除いて暗くなり、3つの明るいブロックがスクリーンに浮かび上がる。
「ちょっと範囲が広いわね。手分けして調査しましょ」
スクリーンの情報を見て数瞬考え、ブルーランチャーこと恵子は2人の仲間に提案する。「おし、そうと決まれば早速出発だ!じゃあ長官、行ってきます!」
恵子の意見に賛成らしく、気の早い事にもう行動に移ろうとするイエローキャノン、勇太。哲也の方も異存はないらしく、3人はうなずき合う。
「うむ、健闘を祈る」
「了解!」
声を合わせて力強く答え、若者たちは調査に向かった。3人の背中を見送った布施長官は、椅子に座って机に両肘をつき、一人宙を睨む。
(‥‥‥ゴーグレンめ、一体何を企んでいる?)

B3エリアの調査に向かった恵子は、学習塾やゲームショップ、団地など、子供のいそうな場所に重点をおいて巡回を続けていた。そして公園のそばを通りかかった時、ふと公衆トイレが視界に入った。
意識してトイレの方を見ないようにしながら公園内のチェックをそそくさと済まし、彼女は足早にその場を離れた。立ち去る彼女のうつむき加減の顔が、よく見るとかすかに上気している。
先週の失敗以来、彼女はトイレを過剰に意識するようになっていた。屈辱感を思い出すのとは少し違う。何ら恥ずべき事など無いはずなのに、トイレの方を見ただけで羞恥心が刺激されるのだ。そしてその動揺を誰かに知られたような気になって、不自然な行動として表に出してしまうほどだった。トラウマと言ってもいいだろう。
哲也も勇太も出来るだけ彼女の粗相の件に触れないようにしていた。しかし気をつけて避けている事がわかってしまうため、彼女は屈辱的な思い出を四六時中意識する羽目になってしまったのだった。

少し歩いたところで、恵子は思い直した。2週間前なら気にも止めなかったであろう小さなものだが、敏感になっている今の彼女には気になる感覚が、下腹部に溜まりつつあったのだ。失敗を避けるためなら、こまめにトイレに行くのが良いに決まっている。踵を返して公園の中に入る恵子。そんな筈はないのに、道行く人が一斉に自分の方を見たような気がしてしまう。
遊具で遊ぶ子供たちの目まで気にしつつトイレへと向かい、個室のノブに手をかけたその時、彼女のブレスレットが甲高い電子音を立てた。
「オーガビースト!?こんな近くに!」
労働時間を選べないのが、正義の味方の辛いところである。公園を飛び出し、周囲を見渡すため手近な高い建物に向かう恵子。用を足す事は出来なかったが、耐え難いほどではない。多分大丈夫だ、急げブルーランチャー!


10階建てのビルの屋上に到着した恵子が目にしたのは、白昼堂々街に出現した、筋肉の山とも言うべき異形の姿。電柱を蹴り倒し、家屋を爆破し、誘拐が目的とは思えないほど傍若無人に暴れまわっている。
「なんてことを‥‥許さない!」
叫ぶが早いか、普通の人間なら即死するであろう高さのビルから彼女は飛び降りた。
「七生転身!」
落下しながらブレスレットのスイッチを押し、光り輝く繊維に包まれて空中でファシズスーツを装着する。純白のアンダースーツと鮮やかなコントラストをなす青色のベスト、ミニスカート、手袋、ブーツ、そしてヘルメット。陽光を反射したバイザーがギラリと輝き、きめのそろったセミロングの黒髪も、空圧にふわりと広がって柔らかな光を放った。
この高さから飛び降りたにもかかわらず、空中で姿勢を制御して軽やかに着地し、ポーズを決めて彼女は叫ぶ。
「ブルーランチャー!」
「おっ?ぐはははは、来やがったなファシズマン。今日が貴様等の最後だ!」
ダークリントにけしかけられ、一斉に恵子に襲いかかる戦闘員たち。だがしなやかで無駄のない彼女の動きの前に、迫り来る戦闘員の攻撃はことごとく空を切る。そればかりか、焦って大きく踏みこんだ戦闘員が彼女に投げ飛ばされる事になった。
左右から同時に来られても、落ちついてまず右を掌底で、振り向きざまに左を肘打ちで気絶させる。その隙に背後から斬りかかった戦闘員はその動きを完全に読まれ、逆に彼女に間接を極められて悶絶―――
先週の彼女とは別人のような戦いぶりだが、これが本来の恵子である。コンディションさえ万全なら、戦闘員などものの数ではない。

「ちいいっ、役立たずどもめ!」
一人、また一人と戦闘員が数を減らしていくのを見て、業を煮やしたダークリントは銃を抜き、射線上に味方がいるのも構わず発砲した。
「きゃっ!」
「ギキーッ!?」
着弾地点で爆発が起こり、周囲に火花が飛ぶ。間一髪、直撃を免れた恵子も吹き飛ばされてしまった。受身をとって体勢を立て直した彼女が元いた場所を振り返ると、舗装された道路が大きくえぐれ、戦闘員たちが焼け焦げた屍と化していた。
(味方ごと‥‥‥なんて奴なの)
続いてやってきた第二射、第三射を大きく動いてかわす。不意をうたれた第一射と違い、これは完全に回避した。恵子のファイトスタイルに合わせて設計されているブルーランチャーのスーツは、他の2人に比べてスピードに優れているのである。
「おのれちょこまかと‥‥!」
(このままでは危ないわ。懐に飛びこんで、一気に決めるしかない!)
「桔梗グラブ!」
武器の使用制限を解除するポーズを決めると、彼女の腕が一瞬白く輝く。その光が消えた時、彼女は肘までをカバーする、青いメタリックな手袋を装着していた。
桔梗グラブ:掴み技や投げ技の威力を倍化する、ブルーランチャーの専用装備である。使用者の力を無駄なく敵に伝え、さらにある程度の慣性制御も行う事が出来る。
第四射をきわどくかわし、第五射の前にダークリントの眼前まで素早く接近する。
「ぬっ?」
至近距離に来られてしまったダークリントは、とっさに自慢の怪力で彼女を殴り飛ばそうとした。その僅かな体勢の乱れ、重心の移動を見逃す彼女ではない。敵の力に同調し、全体重をかけてそれを増幅、一気にバランスを崩しにかかった。
「たあっ!」
体重にして彼女の4倍はあろうかという巨体が、魔術のように宙に浮く。空中で半回転したダークリントは、桔梗グラブの力で重力に数倍する加速度を与えられ、脳天から舗装道路に叩き落とされた。
「おおっ!?‥‥ごが!」
一瞬白目をむきかけたものの、ダークリントは気絶しなかった。恐るべきタフさ加減だが、さすがに朦朧として即座には動けないようだ。この怪物をそのまま無力化せんと、恵子は関節を取りにいった。一度標的をキャプチャーした桔梗グラブは決してはずれない。完全に勝負あった、と思われたその時。

「クヒヒヒャヒャヒャ!そこまでじゃよ青のお嬢さん」
裏声の高笑いも禍禍しく、現れ出でた新手の異形。戦闘能力こそダークリントとは比ぶべくもなさそうな貧弱な肉体だが、白衣に似た装束に身を包み、気でも触れたような笑顔を満面にたたえたその姿はとてつもなく怪しい。さらに――
「助けて、ファシズマン」
「怖いよお‥‥」
その両脇に立った戦闘員たちが、すすり泣く幼子を抱きかかえていたのだ。
「まさか‥‥‥行方不明になっていた子供たち!?」
「まずは大人しく、ダークリントを放してもらおうかの。おっと、下手な事は考えん方がええぞ。このガキどもがどうなってもいいのかぁ?んん?」
首筋に刃を突きつけられ、子供たちの顔が怯えに歪む。無念だが、いたいけな幼い命を人質に取られては手を出せない。やむを得ず彼女は、取り押さえていたダークリントを解放した。
「痛てててて‥‥‥やってくれたな小娘!」
反撃を受ける心配が無くなったのをいい事に、強気になって彼女に詰め寄るダークリント。プルトシラクも、ダークリントを盾にするかの如くその後方に寄り添う。
「この礼、たっぷりとさせてもらうぞ!」
抵抗できないままダークリントに横面を殴られ、恵子は大きくよろめいた。スーツを着ていない普通の人間なら、間違いなく頭蓋を割られていただろう。
「くっ‥‥卑怯よ!」
何とか転倒せずに踏みとどまった恵子は、口の端から血を滲ませながらも2体のオーガビーストを睨みつけた。全体としてはむしろ子供に好かれそうな優しい顔立ちなのだが、その瞳は非道なる鬼畜への怒りに燃え、眼差しには追い詰められてなお戦士としての気迫が満ちている。
この期に及んで毅然とした態度を崩さない彼女を、プルトシラクは興味深げに見詰めた。つま先から舐めるように視線を這わせ、体をかがめてバイザーに隠れた顔を下から覗き込む。
「ふん、勝てば官軍よ。貴様等さえ滅ぼせれば、卑劣という言葉も心地よく響くわ!」
怒号とともに再び腕を振り上げようとするダークリントを、何を思いついてか細身の怪人は止めた。
「ちと待て。この女、面白い使い道がありそうじゃ」
吼え猛るダークリントより、おぞましい視線を自分に向けるプルトシラクの方を警戒すべきと感じていた恵子は、思わず身構える。
ダークリントの影から歩み出たプルトシラクは、懐からスプレーのような物を取り出すと、彼女に有機溶媒らしき強い匂いを持った紫色のガスを吹き付けてきた。
「うっ?」
とっさに息を止めようとした彼女だが、少量吸い込んでしまった。苦痛は無いが、急速に意識が遠のいていく。
(‥‥麻酔‥‥‥?)
やがて頬の痛みも感じられなくなり、強烈な睡魔が襲いかかってきた。周りの出来事が、そして自分自身が闇の中に沈み込んでいく‥‥‥

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