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 おばけ屋敷でGO!!   書いた人:北神的離

第3話 −異変−

 ……………。

「あんまし、怖くないですね」

 純白のシャツに黒いスパッツをはき、背中に小さなリュックを背負った少女…ファナが、斜め上に視線を投げ、呟く。

「……そうね」

 薄手の上着にミニスカート、腰にポーチを掛けている少女…フェリアがそれに応える。

 2人はほのかな灯りが辺りを照らす館内を歩いている。




 おばけ屋敷でGO!!   第3話 −異変−




 館内は確かに不気味な雰囲気が漂っている…
 湿った空気、視界の効かない通路、この雰囲気だけで普通は恐怖を感じるものだが……

「しぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 突然壁が開き、何かが飛び出してくる。

「コレじゃねえ……」

 フェリアはその妖怪を突付きながら言う。

 たまに出てくる妖怪が、あまり怖くないのだ。
 
 どこか、愛嬌のある倭国の妖怪……
 しかも、可愛らしくデフォルメされている。
 最初は何か出てくる度にきゃーきゃー騒いでいた2人だったが、出現ポイントも読めてくるようになると、すっかり慣れてしまった。

「とっても精巧に出来ているんだけどねえ……」

 奇妙な形をした大きな頭を持つ小柄な老人のような妖怪、ぬらりひょんの頭にひじを乗せながら言う。
 ちなみにこれは倭の妖怪達の総大将である。

「姉様、これなんか可愛いですよ」

 言いながら巨大な黒い目玉のような妖怪…バックベアードを抱えながら言う。
 ……倭の妖怪違う。

「……あんたの趣味、良く判らんわ、捨てちゃいなさい」

 階段を上り、通路を歩く2人……

 通路はお化け屋敷らしく多少入り組んでいるが、冷静に対処すれば迷う事は無い。

「あーあ、期待外れだったわね、もっと怖いものが出てくると思ったのに…全長2mの巨大ウデムシとか」

「ウデムシって何ですか?」

「こんなの」

 言いながらフェリアはポーチから取り出したペンで、窓にきゅっ、きゅと虫を描いていく。
 蠍に似ているが尻尾は無く、前足が異常に長い。

「……絶対にお近づきになりたくない虫さんですね」

 竈馬のような斑模様が絶妙なアクセントになっている奇怪な虫の絵を見て、ファナは首を竦める。

「さ、馬鹿な事をやってないで先に進むわよ」

 自分から話を振っといた上に自分で虫の絵を描いときながらフェリアは言い放つと、先に進んだ。

「あ、ま、待ってくださいよう…」

 虫がよほど怖いのか、ファナは虫の描かれた窓から出来るだけ離れるようにしながら追いかける。



「……ところでさぁ」

 更に階段を上り、3階…最上階の筈である…に差し掛かった辺りで、フェリアは意図的に声のトーンを落とし、話し始める。

「この辺り、昔から建物とか全然建たないけど、どうしてか判る?」

「さぁ?交通の便が悪いからじゃないですか?」

 ファナは隣を歩きながら答える。

「違うの…ついさっき思い出したんだけど、ここって呪われた地なの」

「呪われた地?」

「昔、この辺りで大規模な戦があったんだけど、その際ある部隊が補給線を絶たれて全滅したの。皆殺し。酷い殺され方だったらしいわ」

「……」

「それも、当時の司令官がその部隊の隊長の才能を妬んで、意図的に補給を行わなかった所為らしいわ…本当は勝てる戦だったのに、可哀想に……」

「酷い奴も居るもんですね」

「それから数年後、その司令官は変死したらしいわ。首筋には何かに締められたような痣があったそうよ」

「へぇ…怨念、って奴ですか」

「それでも殺された兵士達の恨みは冷め遣らず、ここら辺に移り住んだ人々は次々と不幸な目に遭い、いつしか誰もここに住もうとしなくなった……」

「…嘘、ですよね?」

「嘘じゃないわ、兵士達が動く屍となってここの住民を惨殺するのよ。それで殺された人々も仲間になってどんどん数を増やしていって……」

「だってこの国で建国以来戦があったなんて聞いたことありませんよ?」

「………」

 フェリアは心の中で舌打ちする。
 肝試しに定番のよくあるその地にまつわる怨念話をして、ファナをびびらせまくってやろうとしたが、どうやら失敗だったらしい。

「さ、この部屋ですよね、多分」

 ファナは通路の一番奥にある豪華な扉に手を掛けようとする。

 その時、

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 かすかに聞こえる悲鳴、
 2人は一瞬互いを見合わせると、同時に声のした方に駆け出した。


「た、た、助けてくれぇ……」

 1階の大広間に駆けつけた2人が見たものは、信じられない光景だった。
 腰を抜かして震える若いカップル、多分フェリア達と同じく肝試しに来たのだろう。
 そしてその周りを、数体の異形が取り囲んでいた。
 それは、おそらく、生き物ではなかった。

 何故なら、それらはどれも『腐り果てて』いたからである。
 青白い身体からは所々膿が滴り、ぼろぼろに破れた衣服の下から骨が覗いている者もいる。
 生きる屍…リビングデッド、あるいはゾンビとも呼ばれる化け物だ。

「た…助けて……」

 男が情けない悲鳴を上げようとするがそれすらもままならない様子だ。
 フェリアが駆けつけようとした瞬間、屍の一体が腕を振り上げ……

 ぐちゃり

 何かが潰れる音がし、フェリアは思わず顔をそむけた。
 そしておそるおそるそちらを見てみると……男の顔が無かった。
 屍の攻撃に、男の頭部がまるまる吹き飛ばされていた。

 助ける事が出来なかった……

 辺りに散らばる真っ赤な液体…フェリアはこみ上げる嘔吐感に口を押さえる。
 目の前が歪む…
 体ががくがくと震え、自由が利かない… 
 あまりに非現実的な光景に身体の感覚がおかしくなったように感じられた。

「い…いやぁ…」

 親しい者の死に、女はただ現実を認めたくないかのように首を振るだけである。
 そんな彼女に、他の屍が腕を振り下ろす。

 ばきゃっ

 女は2、3度痙攣し、そしてそのまま動かなくなった。

 その光景を呆然と見、その場に立ちつくしていたフェリアだったが、屍達の次の標的を悟ると、無理矢理感覚を呼び戻し、ファナに向き直り、叫ぶ。

「ファナ、逃げるわよっ!」

「で、でも人が襲われて…」

「もう死んでるわよっ!あんたもそうなりたいのっ!?さぁ、早く!!」

 フェリアはファナの手を掴み、その場から逃げ出そうとする……
 屍達がこちらに気付かない内に…

「ちぃっ、気づかれたかぁ!」

 走りながら後ろを振り返り、フェリアは舌打ちする。
 数体の屍がこちらに歩き出しているのを見たからだ。

 幸い奴等の動きは鈍い。
 追いつかれる前に玄関まで辿り着き、出てしまえば後はどうとでもなる。

 そして順路をたどり、玄関までやってきたのだが……

「あ…開かない、どうして!?」

「そういえば管理人さんが言ってましたね、鍵を手に入れなければ出れないって」

「んな事言ってる場合かぁ!ファナ、管理人室に行って、マスターキーを貰うわよ!!」

 2人は走る、ただひたすら走る。
 そしていくつかの部屋を覗いた後、ようやく管理人室らしき部屋を発見した。

「ケータローさん、非常事態だからさっさとマスターキーを渡して!ついでに一緒に逃げるわよ……………!!」

 開けると同時にフェリアは用意していた言葉を叫び、直後絶句した。
 部屋の中には既に数体の屍が居て、部屋の中を荒らし尽くしていた。
 その中央に広がる血の海、そこにケータローらしき姿があった。

 服のあちこちが無残に破られ、その下から真っ赤な血のしたたる肉が覗いている。
 手足があらぬ方向に折れ曲がっている。
 恐らく、もう……
 部屋を荒らしていた屍達は新たな目標を発見し、振りかえる。
 そう、フェリアと、ファナだ。

「くっ…ここも駄目か……ファナ、逃げるわよ!」

「はい」

 言いながら部屋から脱兎の如く逃げ出すフェリアと、青い顔をしながらもそれに続くファナ。

「姉様の話……本当だったんですね」

「作り話に決まってるでしょうが!とにかく、こうなったら、最上階と地下室にある鍵とやらを手に入れてさっさとこの屋敷から逃げるわよっ!!」

 フェリアとファナはひたすら屋敷の1階を走り回った。
 進行方向に屍が現れればUターンし、他の道を探す。
 そうしている内に2人は徐々にある場所に追い詰められていた。

 地下室への階段……

「下から来るぞ、気をつけろ!」

 言いながら階段を駆け下りようとするフェリアをファナが止める。

「姉様、下から来るってのにどうして階段を降りようとするんですかぁ!!」

「いや、こういう時はこうするのが礼儀…」

「冗談やってる場合じゃ無いでしょうっ!!」

 とかやってる間に彼女達の周囲を取り囲む屍達……
 右も、左も、前も、
 そして階段の下からも………

「すっかり取り囲まれちゃったわね」

「ええ……」

 言いながらも2人はこの場から逃げ出す方法を考える。

 今回先にその方法を思いついたのはファナの方だった。

「姉様っ、下!!」

「え…?」

 突然のファナの叫びにフェリアは階段を覗きこむ。
 別に変わった事は無い、数体の屍がこちらの様子をうかがっている以外は。

「えいっ!」

 覗きこんだフェリアの背中に、掌底突きをかます。

「うわ、うわ、うわわわわわ……」

 階段から落ちそうになり、手をじたばたさせ、何とか踏ん張ろうとするフェリア。
 いきなりのオーバーアクションに、屍達の注意が一瞬そちらに注がれる。
 その一瞬をファナは見逃さない。

「やぁっ」

 スライディングで前方にいる屍と壁の間をすり抜ける。
 一方フェリアはというと……

「ふぁぁぁぁぁあぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 恨めしそうな声が響いてくる。
 恐らく妹の名前を叫んでいるのだろう。
 その声がどんどんと遠ざかる。
 ごろん、ごろん、という擬音も付属している事から推察するに、必死の努力も空しく階段を転げ落ちているようだ。

「姉様、あなたの尊い犠牲は無駄にしません…」

 便宜上呟き、ファナは十字を切ると、鍵の在り処…最上階に向けて走り出した。




続く

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