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  「西へ」 −バーシア アナザーエンド−             場面8

■ フェルナンデス 3月10日 19:30  主人公の部屋

二人が寝室に消えた後、手持ち無沙汰のオレは、隣室の椅子に腰掛ける。
しかし安普請の宿だ。声だけは否応無しに筒抜けで耳に入ってくる。

【[肉屋]】「さぁ…邪魔モノも居なくなって、ようやく二人きりになれたねぇ」

何が二人きりだ、バカ野郎…

【[肉屋]】「そんなに身体を固くせず…ウッシッシ…このオッパイの柔らかさと同じように力を抜いて…」
【[バーシア]】「あっ……くふぅ」

密室の中で二人きり。
しかも相手は、オレが言うのもなんだが、バーシアのような飛び切りの美人だ。
変な気を起こすなというのが無理というものだ。
それどころか、あの男は、そんな変なことをする気分満々で来ているのである。
猫にマタタビを塗ったカツオブシをやるようなものだ。

【[主人公]】「隣の部屋で、バーシアがいたぶられているのを、ただ聞いているだけか、今のオレは…」

たしかに虫唾が走るような男だ。
しかし形はどうであれ、金まで貰っている以上、契約は成立済みだ。
今のオレに奴を止める権利はない。
もちろんバーシアの生命に関わるような危険が降りかかれば、部屋に飛び込んで、この身を投げ打ってでも止める覚悟はできている。
しかし、そのためだけに隣室に待機して、バーシアと醜悪な男との睦み事を聞かされ続けるというのも耐え難い苦痛だ…
と、そこまで考えて、はたと気がつく。
苦痛だって…? このオレの苦しみなどに比べたら…

【[主人公]】「オレは自分のことばかり考えて…一番苦しんでいるのは、バーシアじゃないか!」

隣室からは、引き続き、肉屋の興奮気味の荒い息と、気色の悪いだみ声だけが聞こえてくる。

【[肉屋]】「さぁ…麗しのバーシアちゃん…二人の愛を確認するために、熱い接吻を交わそうね」
【[バーシア]】「……」
【[肉屋]】「まぁ、そんなに身構えなくても…ウシシ…そこが可愛いんだが……」

肉屋の勝手な物言いだけが聞こえてくる。

【[肉屋]】「ほぉ…言い付けどおりに真っ赤なルージュか…それに柔らかそうな唇…やはりそそるねぇ。ではいただきます!」
【[バーシア]】「はくん! ぬぐっ…んくく…ちゅるじゅる…ずずっ…」

お互いの肉の裂け目を絡ませ、唾液を交換し合うイヤらしい音が、こちらまでも響いてくる。
どうも肉屋は、わざと猥雑な音を奏でて、バーシアの羞恥心を誘っているようだ。
もしかしたら、隣の部屋にいるはずのオレへのあてつけかもしれない。
いや、そうに違いない。
隣の部屋に筒抜けかもしれない、とバーシアに思わせることで、一層心理的に追い込んでいるつもりなのだ。

【[バーシア]】「くぅぅ…じゅる…んぐっ!…くはっ…はぁはぁ…」
【[肉屋]】「ダメじゃないか、バーシアちゃん、口を離したらぁ。まだ愛の確認は半分も終っていないんだから」
【[バーシア]】「そ、そんな…はぐっ…んんぐ…ちゅるちゅる…」

意味不明のことを言いながら、息継ぎをさせる間もなく、バーシアの唇を貪りつづける肉屋。
この間も、バーシアの口の中は、男の醜怪な舌先で縦横無尽に蹂躙されていることだろう。
吐き気を催すような唾液を無理矢理飲み込まされ、吐き出そうにもピッタリ口をふさがれては、息をするのがせいぜいといったところだろう。
想像したくもないのに、そんな様子が脳裏に浮かんでは消えていく、負のスパイラル。
くっ…どうすればいいんだ!

【[バーシア]】「ぷはっ…はぁ…はぁ…はぁ…」
【[肉屋]】「フフ…バーシアちゃんの唾液は、相変わらず美味しいねぇ。わしの若返りの妙薬だよ」
【[バーシア]】「…はい…ありがとうございます…」

…嫌々礼など言わされて…「北」で散々躾られたとおり、事務的な返答でやり過ごしているようである。

【[肉屋]】「ウチのババアだとピクリともしない息子がこの有様! キスするだけでこんなになるんだから、君は本当に罪深い女だよ」
【[バーシア]】「はい…」
【[肉屋]】「じゃあ、猛り狂っているこれを大人しくさせるために、まずは口でやってもらおうか。いつものようにね」
【[バーシア]】「……はい……」

頷きはしたが、言葉の端々に迷いが聞こえる。

【[肉屋]】「おっと、その前に、せっかくのルージュを綺麗さっぱり舐めとってしまったからな。もう一度口紅を引き直した上でやってくれよ」

くだらんところには、こだわる奴だ…
しかし、あのバーシアが、オレ以外の男のイチモツをくわえさせられるなんて、一体どんな表情をしてやるのだろう…
それに、あんな野郎の股間をしゃぶるために、またあの妖艶な化粧をするなんて…
意識は、再び底無しの泥沼にはまり込んでゆく。

【[主人公]】「い、いかん…そ、そんなことを考えているとまた頭が…」

フラフラと立ち上がると、そのまま机の引出しに隠している薬を、震える手で持ち出し、口に数粒含んだ。
一種の沈静剤だが、このところ効き目が悪くなり、薬の使用量も段々増えていっている。飲まないと時として頭が割れるように痛むときもある。
やはり身体の内部の歯車は狂い始めているようだ。
副作用を気にしつつも、薬が与えてくれる束の間の安息に逃げていってしまう。
特に、バーシアがオレ以外の客と交わっている様子を聞かされるときなどは。

【[主人公]】「フウー」

一つ大きく息を吐く。効き始めてきたようだ。
バーシアが隣でどんな淫らな様を強要されているのか…それにどんなに苦しげに顔を歪めて反応しているのか…
淫靡な嬌声を背景に、妄想の度合いを増していくのであった。…

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