目録へ  悶絶投稿へ戻る  


  −淫獄包囲網 悪意のネット調教−                          久遠真人 作         

【1】日常の朝、そして始まり・・・

梅雨も開け高々とした青空であったがまだ朝はヒンヤリと清々しい朝であった。
私が時計を確認すると鞄を手にすると、いつもの時間通りに自宅であるマンションのノブを回して玄関から出る・・・すると、いつものように、横から凛とした声をかかってきた。

「ふふふ、おはよう!いつも時間に正確ね」
「あ、お・おはよう」

横を見ると、幼馴染であるお姉さん・・・広瀬 綾乃(ひろせ あやの)が、白のスカートとネイビーブルーのブラウス麻のジャケットといつもの服装で、ニッコリとした笑顔をこちらに向いて立っていた。いつもの時間に当たり前のように彼女の方から朝の挨拶をかけてくれる。傍から見れば子供のときから繰り返してきた当たり前の光景である・・・けど、私が思春期を迎えて、ただの幼馴染のお姉ちゃんから、一人の女性と見るようになってからは、どうしてもドキドキしてしまう。特に彼女が高校を卒業して都内の女子大に通うようになり、急に大人ぽくなりだしてからは、ドキマギしてそれを隠すのに苦労している。
目鼻の整った顔立ちに、きりりとした少し太めの眉、気の強そうな切れ長の目、肩まである少し癖のある黒髪を後でキュッとまとめている、体格は女性にしては長身で一見ほっそりと華奢な感じに見えるが、それは女として必要な部分以外の無駄な脂肪がほとんどついていないだけである。そんな彼女が私の横で背筋をピンと背筋が伸びて颯爽と歩く・・・その姿についつい見とれてしまう。


自宅である高台にあるマンションを出ると、大きな木々の広がる公園を10分ほどかけて抜けて最寄の私鉄駅まで向かう。
私たちの住んでいるマンションは、都心とは同じ東京とは思えないほど緑の多い街にある。
もともとは人気の少ない街だったが、バブル開発時期に、緑多いベットタウンとして大々的に開発して販売する為に山を切り崩して建てたらしい。だが、このマンションを建てた後にバブルが弾けて、結局は気合を入れて作られた大きな自然公園の中にぽつん背の高いマンションが一棟だけ建つ結果となった。最近は、景気回復に伴ってまた再開発との話もあり、周りに同様も20数階クラスのマンション建設が再開していた。最近は、昼間は工事の音で騒がしいと、近所のおばさんが嘆いていたのを聞いていた。それでも夜になると工事車両の往来も途絶えると、この当りは静寂に包まれる。

彼女と当り障りのない話をしながら、静かな自然公園を二人で歩くこの日常も、それらのマンションが出来れば、朝の通学する人も増え、同じようには行かなくなるだろう。


そうこうしていると、最寄り駅に到着した。駅の反対側は昔ながらの住宅地で、私たちのマンション方面とは違っていろいろお店もありひらけている。私たちが駅のフォームへと向かうと、それまでの静寂が嘘のように都心方面に向かう学生やサラリーマンでごった返している。

「もう少し、電車の本数が増やして、この通勤ラッシュをなんとかして欲しいものだわ」
「でも、今でも朝は結構な本数ですから、難しいでしょうね」

ホームに満員電車が滑り込んできた。それに更に乗り込もうとする人の流れを見て嘆く彼女に、私は苦笑いをしながら受け答えした。
電車の扉が開くと、わずかな人が降り、その数よりもあきらかに多い人々の流れにもって、私と綾乃さんは車内に飲み込まれていた。


「くっぅ・・・」

無理矢理乗り込もうとする通勤客の流れに綾乃さんとバラバラになってしまった私が、少し離れた所に立つ綾乃さんが表情を曇らせたのに気がついたのは、こっそりと気づかれないように彼女の顔にに見とれていたからであった。

(どうしたのだろう?)

彼女は、そのキリリとした眉をしかめ、頬をほのかに赤く染め、すし詰め状態の車内で、しきりに体の位置をずらしたり鞄を抱え直したりして、背後を気にしている。その視線を追ってみると、彼女は背後に立っているスキンヘッドの大男と日焼けしたロン毛の男たちを気にしているようだ。ニヤニヤと品の無い薄笑いを浮かべガラの悪い服装である二人は、まわりの学生やサラリーマンの中で、明らかに違う人種であった。

(もしかして・・・綾乃さん、痴漢にあっている?!)

通勤客の間からわずかに見える隙間から、綾乃さんの下半身に這う彼らの手が見えた。

(た、たすけなきゃ!!)

そう思いつ動揺し動けずに、ジッと見ている私に気がついたのだろう、凄い目で威圧するロン毛男の視線でやっと一歩踏み出した私は、硬直してしまった。

「いでででてぇ!!」
「いいかげんにしてくださいッ!!」

その時、大男の悲鳴と綾乃さんの怒った声が静かだった車内に響き渡った。

「いてぇなぁ、この阿女ぁ、なにしやがるッ!!」
「とぼけないで!この手で痴漢しておいて、何をいってるの!!」

綾乃さんは、手首を捻り上げたまらず怒声を放つ大男に負け、こころなし少し上気した顔に険しい表情で言い放つ。

「いいがかりを付けやがって!話しやがれッ!!」

大男は怒声を撒き散らし動こうとするが、一見華奢に見える彼女に手首を固められ、いいようにあしらわれている。
綾乃さんは、都内の国立大学に入るまで私と一緒に合気道の道場に通っていた。袴姿で、他の門下生である男性たちを投げ飛ばす凛々しい姿を見たいが為に、一緒に通っていた私であったが、忙しくってなかなか道場にこれない彼女に比例して、最近の私は受験があるのでと理由をつけてはサボり気味である。
見るからにガラの悪いスキンヘッドの大男が、ふたまわりは小さい美女に取り押さえられている光景に、周りの乗客はすっかり引いて傍観している。気がつくと大男と一緒にいたはずのロン毛男は、他の乗客にまぎれこんだのかいつの間にか姿を消していた。

「いてぇっていってるだろうがぁ!!」

次の駅に到着し扉が開くと、電車に乗ろうと待ち構えていたフォームの通勤客を掻き分け、大男は綾乃さんに背後に手を捻られ追い立てられるように降りていった。私は慌ててその後を追った。


「てめぇ、覚えてやがれよぉ!!」

駅員に囲まれるように連れて行かれる大男が凄い目を睨み付けつつ吼えるのを、鼻であしらっていた綾乃さんは、私に気がつくと、途端に照れたような顔をした。

「・・・また、やっちゃった」

私の方にバツ悪そうにぺロッ舌をだす子供ぽい姿は、子供の頃に私の方がまだ強く、なにかとあると彼女を私に付いて来ていた頃を思い出す。

「綾乃さんが強いのは知ってるけど・・・気を付けて下さいね」
「だってぇ・・・女は弱いもの、なんてイイ気になって、悪さする奴らは、我慢できないんだもの」

私の答えが不満だったのか、頬を膨らませてプイッと横を向く彼女に苦笑いを浮かべながらあやして、新たにホームに滑り込んできた次の電車に二人して乗り込んだ。
そんな二人を物陰から睨み付けているロン毛男の存在には私たちは気が付かなかった。


 悶絶投稿へ戻る    進む