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  −淫獄包囲網 悪意のネット調教−                          久遠真人 作         

             
【2】悪意あるネットワーク

そのホームページに私が辿り着いたのは偶然だった。その夜、勉強の合間の息抜きと称してネットサーフィンをしていた私は、ある掲示板に、先日の痴漢騒動の事が書き込まれたのに気が付いた。
書き込まれた情報には、スキンヘッドの大男とロン毛の男は他の仲間たちと痴漢をしてはそれを撮影してネットで公開していたらしい。痴漢以外にもヤラセかもしれないがレイプまがいのものから、SMちっくな調教ムービーまで有料会員に流し。その過激さからコアなファンも多いらしい。先日の事件では、一緒にいたロン毛男がカメラ等もって現場から去ってしまっていたので、ただの痴漢扱いですんだらしいが、そのうちお縄になるのでは?という話だった。最後に、その問題のホームページのアドレスが書き込まれていたので私は打ち込んでみた。
アダルト系ホームページ特有のケバケバしい色使いの画面が出てきた。

ヘブンズドア・・・

全ての女は牝である・・・
どんなに清楚な女だろうが・・・
どんなに高貴な女だろうが・・・
裸になり、股座に突っ込まれれば、ただの牝である・・・
この扉をくぐりし者は、それが事実であると、知ることができる。

そこでは様々な卑猥なムービーを撮影しては有料で公開するホームページであるようだ。
「痴漢」「露出」「輪姦」「監禁」「調教」・・・次々と並ぶ日常生活とはかけ離れた言葉の数々に、私は読む進むにつれ眩暈を感じると共にどこか興奮している自分に気が付き動揺した。
無料コーナーの各項目にはサンプルムービーとリクエストや情報募集の為の掲示板が貼られていた。私は徐々に高揚する自分に戸惑いながらも、震える手で派手な文字でNEWと点滅する「痴漢」の項目をクリックした。
それは目の部分にモザイクは入ってはいたが、先日の綾乃さんが痴漢されている光景であった。
彼女のスカートの上からもわかる肉付きのよいお尻へとスキンヘッドの大男の手が伸びる。最初は、遠慮がちだった手が徐々に激しくなり、次第に両手で撫で回し、鷲掴みにするように荒々しく揉み始める。ロン毛男の方も空いている手を、彼女の背筋に這いずり回し、首筋や耳元に熱い息を吹きかける。

(綾乃さん・・・あんな事をされていたのか・・・)

いつもは凛々しい彼女の眉が困惑と嫌悪でハの字にキュッと歪められ、羞恥で耳元まで真っ赤に染まっている。しきりに人ごみで動きのままならない体を揺すり、彼らからの手から逃れようとするが、それはかえって嗜虐心を刺激する動きでしかなかった。私はそんな普段とは異なる彼女の姿を見ていると、徐々に心の奥から湧き上がる得体のしれない感覚に、戸惑いを感じた。
次第に激しくなる男たちの行為に、俯き目を伏せている彼女の朱唇は、薄く開き切なそうに白い歯が覗いている。

(もしかして・・・綾乃さん、触られて感じでいたの?)

男たちの手が一旦止まる。大男の手が背後からスカートを巻く仕上げるようにしてその中に入っていった。一瞬止まった手にホッとし俯いていた彼女が、ビックリしたように顔を上げる。真っ赤な顔をして彼女の手が大男の手を掴み捻り上げた。

(・・・綾乃さんが痴漢されて、あんな表情
をするなんて・・・)

普段の彼女がら想像もしていなかった姿を見て、私は自分でも想像できないぐらい興奮していた。


私は落ち着くと、次の掲示板をクリックして眩暈を覚えた。

「いい所で止めてんじゃねぇ!この女、感じてた癖に!!」
「本当はもっと乱暴にされたいんじゃねぇのか?」
「女の癖に強がってんじゃねぇ!」
「こんな女!もっとメチャメチャにしちゃえ!!」
「強くても牝だってわからせろ!!」
「どこの女だ?情報求む!!」

そこには綾乃への悪意のある書き込みで溢れていた。時間の経過と共に彼女の個人情報が次々と書き込まれていく。名前、身長、スリーサイズ、通っている大学名、自宅の住所、、携帯の番号。そして、その情報からあらたな情報が次々と追加されていく。彼女の履歴から顔写真、自宅であるこのマンションの写真、彼女の両親が海外赴任中で一人暮らしであること、交友関係は多いが現在は彼氏がいない事までが晒されていく。私だけが知っているようなささやかな彼女の情報も暴かれ、更には私の知らない情報まで曝け出され付きつかれるのは、精神的に彼女が犯されるようで・・・嫌悪感で胃がムカムカすると共に、ネットによる悪意が形になったような書き込みの数々に、寒気を感じた。

私は、そのままそのホームページを見続ける気にならず、電源を落とした。

だが背筋を走るゾクゾクする悪寒の中に、どす黒い快感も混ざっているのに私はその時は気が付かなかった。


次の日、あのホームページの事を彼女に話そうかと迷ったが、あの悪意に満ちた掲示板を思い出し、とてもあのようなものを見せれないと思い話せずにいた。その時に、彼女に伝えて・・・いや、周囲にもっと注意をはらっていたら、あのような結果にはならなかったのかもしれない。

その日、私は学校行事で少し遅くなった。駅から降りると車の通りである道は遠回りになる為、公園を突っ切るルートを一人で急ぎ歩いた。このルートはうちのマンションの住人以外では散歩をする人ぐらいしか使わないので、朝に綾乃と一緒に駅へ向かう日中以外では、静まり返り寂く本当は私は好きではなかった。
マンションまであと半分という所で、木陰から見覚えのあるロン毛男が道を塞ぐように出てきた。

「ヒヒヒッ、よぅ、俺の事を覚えてるか?あの阿女と一緒にいたから覚えてるよなぁ?」

鋭い眼光で睨み付けながら、私に話し掛けてくる。

「ちょっと話があるんだが、いっしょに付き合ってくれねぇか?」
「話って・・・なんです?」
「うーん、綾乃つったっけあの女。あの女と話がしたいんで、ちょっと取り持って欲しくってねぇ」
「なんで私に・・・?」
「ヒヒヒッ、俺たちが呼んでも、出てこないだろうからさ」
「俺・・・たち?」

ロン毛男の下卑た笑いに淫らで陰惨なものを感じると同時に、背後の気配に気づき振り向こうとした瞬間、後頭部に衝撃を受けて、私は意識を失った。 


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