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  『虐囚 〜魔窟に囚われし心〜』 (2)                       久遠 真人作         

【2】禁断の扉が開き、淫獄は口を開ける・・・・・・


「・・・・・・知り合いの女の子が、暴行を受けているだって?」

俺の言葉を聞くと、巴 静香は凛々しい顔を沈痛に歪ませた。
俺は、彼女の澄んだ瞳を見つめながら、黙って頷いた。


俺は、ある決意をすると、次の日、彼女のマンション前で彼女を待ち続けた。
週末という事もあり、誰かと食事でもしてきたのだろう。アルコールでほんのり頬を紅く染め夜遅く帰宅してきた。確か、恋人はいるが現在は海外赴任中だという話だから、同僚とだろう。
そんな彼女は、深刻な顔をした俺が「相談したい事がある」と言うと、黙って自室へと案内してくれた。
彼女の部屋は2LDKで、彼女の性格と同じく、整理整頓が行き届き、アンティークなどが嫌みなく配置された大人の部屋だった。
俺は案内されたリビングの椅子に座り待っていると、通勤のスーツ姿から、ワイシャツとジーンズのラフな姿へと着替えた彼女が戻ってきた。
そして、彼女に促されるように、ゆっくりと話を始めたのであった。


「その映像が・・・・・・ネットで公開されているのを、偶然・・・・・・見つけたんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

俺の正面に座り、じっと俺の表情を見つめながら、黙って聞いている彼女。そんな彼女に俺は淡々と経緯を話し続けた。

「・・・・・・でも、俺は・・・・・・俺は、警察に届ける事も、彼女の元へ行ってやる事も・・・・・・出来なかったんだ」

そこまで言うと俯いた俺に、彼女はよく冷えた麦茶を目の前のテーブルに黙って置いてくれた。

「・・・・・・それが正解だろうな。警察にいくにしても当事者でないお前が、いきなり行くのも問題がでるだろう。会うにしても元カノとしたって、いきなり尋ねれば、貴方が公開サイトで知った事を教える事になりかねん」

そう言うと、彼女も麦茶を口に含み、喉を潤した。

「その彼女の事を想うと、穏便に事を納められると良いのだが・・・・・・・・・・・・その、サイト・・・・・・ここでも見る事ができるか?」

しばし思案すると、彼女は俺に訊いてきた。そして、俺が頷くと別室からノートパソコンを持ってきて、目の前に設置する。
俺は、覚えていたアドレスを入力すると、そのサイトを開き、画面を彼女に向けた状態で差し出した。

「ここなのか・・・・・・」

そう呟くと、彼女はカーソルを操作し、ページを開いていく。

「そんな・・・・・・」

想像してた以上だったんだろう、最初、彼女はサイトの内容に圧倒されているようだった。

「これは、ヒドいッ・・・・・・ヒドぎるわ」

それでも、顔を強張らせて、冷や汗を流しながらも、次々とページを開いていく。
麦茶で喉を潤す事も忘れ、画面を凝視し、無意識に生唾を飲み込んでは、ヌラつく舌先で唇を舐める。
そんな彼女の様子を俺は黙って見つめていた。



「ふぅ・・・・・・」

一通りサイトを見ると、彼女は何かを祓うかのように大きく息を吐き出した。

「・・・・・・どうでしたか?」
「正直・・・・・・他人の私が見てもキツいわ。まして本人にはとても見せられないな・・・・・・」

そういうと、彼女はぬるくなった麦茶に口をつけ、ゴクゴクと喉を鳴らしながら、一気に飲み干した。

「少し・・・・・・時間を貰っても良いか?、なにか・・・・・・なにか、手を考えてみる」
「わかりました。俺も、もうちょっと調べてみます。あの映像の中に、連中に対する情報が隠れているかも知れません。先生も気付いた事があったら教えて下さい」

俺の言葉に彼女は「えッ、えぇ・・・そうだな」と慌てた様に返事をした。

「もう、頼れるのは先生だけなんです。お願いしますッ」

深々と頭を下げる俺に、彼女は表情を引き締め頷いた。

「だから・・・・・・この事は、他言無用でお願いします。ただでさえ、あんな映像を人に見せたなんて知られたら・・・・・・ましては、男性になんてって事になったら、俺の元カノも耐えられないと思うので・・・・・・」
「わかった。2人だけの秘密にしよう」

俺の懇願にも、彼女はニッコリと微笑み、約束してくれた。
そうして、情報交換をする為にと、お互いの携帯のメールアドレスを交換すると、俺は彼女のマンションを出た。

マンションを出たのは、深夜の0時になろうかという時間だった。
空を見上げると、どんよりと厚い雲が覆い、今にも雨が降りそうな空だった。

「さて・・・・・・やれる事は、やっておくか・・・・・・」

俺は独り呟くと、夜の街へと足を向けるのであった・・・・・・



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