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 序章 (2)

「あぅっ」

 痛みに呻いた護衛だったが、その痛みが彼女に本来の自分を、本来の役目を取り戻させた。そう、自分は邪神復活を阻止するために神殿から送り込まれてきたのだ。その邪神が復活してしまった今、完全な力を取り戻す前に倒さねばならない。

「でやぁぁっ」

 一撃必殺の戦鎚が唸りをあげ、脚に絡み付いた触手を叩き潰した。新たな触手を戦鎚の一振りで牽制し、一旦距離を置こうと指輪の魔力を解放して宙に舞い上がった。

 しかし彼女の活躍もそこまでだった。突然地中から触手が生えてきたのだ。完全な死角から襲われたため避けることもできず、またしても彼女は足を取られた。右足に絡み付いたその触手は、彼女を凄まじい勢いで地面に叩き付けた。

「ぐはっ」

 あまりの衝撃に一瞬意識が遠のいてしまった。叩き付けられた勢いで顎の留め具が飛び、ヘルメットが外れてしまった。ヘルメットの中に収められていた髪が舞い広がり、その経験と肩書きの割には幼く見える顔が苦痛に歪んだ。

 その隙を邪神が逃すはずもなかった。1本の触手が戦鎚を奪い取り、別の触手は左足に絡み付き、彼女を宙吊りにしてしまった。

「負……ける、負けるもんかぁっ」

 自分を奮い立たせるように叫ぶと、女は腹筋の力で上半身を起こし、脚に絡み付いた触手を解こうと腕を伸ばした。その鼻先をかすめるように、戦鎚が走った。反射的に身をすくませた彼女の首に、生暖かいものが触れた。触手だ。ヌラヌラと粘液に照り輝くそれは、彼女の首筋をゆっくりと這い上がり、頬を撫で、ついには眼前で鎌首をもたげた。

 絶体絶命の状況。それでも彼女は、気丈にも触手を睨み付けた。

 右手で素早く印を切ると、早口に呪文の詠唱を始めた。神官戦士の面目躍如と言ったところだったが、その行為は見事に墓穴を掘っていた。

 呪文を唱えるために開かれた彼女の口の中に、触手が潜り込んだ。そしてその先端から、粘つく液体を吐き出した。

「んむぅっ、むぅ、んんんぅ?」

 吐き出そうと必死になって首を振ったが、長く力強い触手を振りほどくことなど不可能だった。液体は次々に注ぎ込まれ、口の中はもう一杯だった。息苦しさに負けた彼女は、とうとう液体を呑み込んでしまった。ドロリとした感触がノドを伝い、そのおぞましさに彼女は鳥肌を立たせて身悶えた。

 白いノドが何度も上下してから、ようやく触手は彼女の口から頭を抜いた。

「ゴホッ、ゴホッ、ウフッ」

 咳き込みながら残った粘液を吐き出した。口の端から溢れた白い液体が、糸を引いて地面に落ちていった。それを拭おうともせず空気を貪っていた彼女だったが、触手が耳を撫でさすってきて、ヒッと息を呑んだ。しかもその触手は先端部分に無数の繊毛を持っており、それが耳たぶと言わず耳の中と言わず、一斉に蠢きだした。

「ひぁっ?! ……っく、止め、止め……てぇ」

 その哀願する声はすでに力無く、潤む瞳も果たして屈辱のためだけだったろうか。

 いやいやと首を振る彼女の頭に、声が響いたのはそんなときだった。

『……アルカ・グレイス、21歳。職業は神官戦士……って、君の個人情報を記憶から読み込んでも意味がないんだな、これが。君の身体に刻まれている情報を読みとらんと』
「何? 何を言ってるの……?」

 不安で身を縮こまらせて邪神を見るアルカは、まさに怯えた子羊のようだった。

『いや、こちらのことだ。それよりアルカ君、怖がらずに自分の身体に素直になることだ。流れに身を任せてくれると、こちらもやり易いんでね』

 言葉の中身はおいとくとして、その口調は邪神と言うにはあまりに穏やかだった。その穏やかさに導かれるように、アルカはそっと目を閉じてしまった。

『そう、それでいい。身体を楽にして』

 邪神の声はどこまでも優しい。言われるままに力を抜いたアルカは、自分の内に小さな炎が燃えているのに気付いてしまった。

「え……? ウソ、やだ……」

 意識するや否や、その炎は一気に燃え上がった。内から溢れ出した蜜に、アルカの下着がジュンと音を立てて濡れそぼった。頬を赤くしたアルカが腕を伸ばしてそこを隠そうとすると、横から伸びてきた触手がそれを押し止めた。

 その触手はアルカの手から籠手をはぎ取り、繊毛を使って指輪まで外してしまった。指輪の魔力が奪われ、アルカの身体は重力に引き寄せられた。しかし落下することはなかった。アルカの腰や肩に何本もの触手が巻き付いて、彼女を支えていたのだ。

「あ……」

 そこには、触手にからめ取られたというおぞましさは微塵もなかった。まるで優しく抱きしめられているような感触に、アルカは吐息を漏らした。このまますべてを、邪神の言うがままに任せてしまいたくなる。身体の内から燃え盛る炎が、その誘惑を煽り立てる。

 しかしアルカは歯を食いしばり、朦朧とする意識を回復させようと頭を振った。自分は誇りある神官戦士なのだ。邪神を屠るために来たのであって、籠絡されるために来たのではない。アルカは弱々しい動きながらも腕を持ち上げ、見にまとわりつく触手を引き剥がそうと指をかけた。

『やれやれ強情だな。人間、素直に生きるのが一番だと思うぞ』

 声に続いて、今度は細目の触手が何本も現れ、アルカの素肌を求めて鎧の隙間から中へと潜り込んでいった。そうやって股間へ到達した何本かが、先端から大量の液体を吐き出し、アルカのその部分をずぶ濡れにしてしまった。

「い、いやっ、冷たっ……いっ!?」

 浴びせられた液体が下着を濡らし、アルカの肌にピッタリと張り付かせた。その冷たさにアルカの身体が震えようとしたまさにその瞬間だった。冷たさは瞬時に熱さへと変わり、アルカの身体は大きくのけ反った。

「や、やだっ、何これ? いや、いやぁ」

 異様なまでの体の熱さに怯え、身を震わせるアルカ。その度に固く尖った乳首は肌着にこすりつけられ、秘園は熱い蜜液を溢れさせる。

『ふむ。さすがに直接塗布する方が、手っ取り早かったな』

 その感慨深げな声も、すでにアルカの耳には届かなくなっていた。

 内側から燃え盛る炎と、外側から燃え広がる炎とに身を焼き尽くされ、アルカのわずかに残っていた理性は、落城も時間の問題であった。

「いや……、違う、違うの、こんな……、違う……」

 力無いながらも否定の言葉を紡ぎ、沸き上がる快感を否定しようとするアルカ。しかしその身体は、すでに理性の楔から解き放たれていた。自らを戒める触手を振り解こうとしていたはずのその指が、今では愛しげに触手を握りしめていた。

 強く握るとぬめりで滑ってしまうが、掌にドクドクと脈打つのが感じられた。最初は嫌悪していたはずのそのなま暖かさが、今はどうにも心地よかった。

 グシャッ!!

 内に潜り込んだ触手と、外側から締め付ける触手との間で、アルカの肉体を覆っていた鎧が粉々に砕け散った。同時にそれは、アルカの意地が砕け散った音でもあった。今のアルカは、ほとんど全裸に近い状態だというのに、微かに身じろぎしただけで、激しい抵抗など素振りも見せなかった。

「あんっ」

 指先で触手を弄んでいたアルカが、甘い声を漏らした。足下から触手が登り始めたのだ。すでにブーツもはぎ取られたアルカの爪先から這い登り始めた触手は、ヌラつく粘液をアルカの白い肌に塗りつけながら、足首からふくらはぎ、さらには太股へと、絡み付きながら登っていった。

 触手による拘束感が這い上がってくるにつれて、アルカの胸は高鳴っていった。しかし触手は、太股の付け根まで上り詰めたところで、不意に動きを止めた。

「え、どうして? っん!」

 期待を裏切られたアルカが戸惑いの表情を浮かべたとき、今度は反対の足を、先程と同じように触手が下からゆっくりと這い登り始めた。ところがその触手も、太股まで来たところでやはり動きを止めてしまった。

 それぞれ動きを止めた触手は、アルカを愛撫する代わりに、彼女の足をゆっくりと開かせていった。そうしながらアルカの身体を2つ折りにしていく。おかげでアルカは、大股開きにされた自分の股間を、イヤでも見せつけられる羽目になった。

「はぁっ、はぁっ、駄目、こんなの。恥ずかしい……」

 うなされたように喘ぐと、アルカは弱々しく首を横に振った。もちろん、そんなことで足が閉ざされるはずもなかった。アルカの下着は、触手が浴びせた粘液と、アルカ自身が溢れさせた蜜液とでびしょ濡れになっており、もはや下着の機能を果たしていなかった。薄目の茂みどころか、開ききった秘裂の形さえも、はっきりと見て取れた。

 普段は自分でも見ることのないその部分を強制的に見させられ、ただでさえ上気していたアルカの頬が、いっそう赤く染まった。それほど羞恥に身を焦がしながらもそこから目を離せずにいるのは、これから始まることへの期待のためだった。

 他のどの触手よりも一回りは太い触手が、アルカのソコに狙いを定めていた。


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