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 第3章 乙女の懇願 -1-

 いつ頃からだろう。薫が尿意を覚え始めたのは。
縁がいなくなってから、ずいぶん時間が経つ。はじめのうちはなんとか抜け出せないかと手足を動かしたり、身体全体で椅子をゆすってみたりした。
しかし、椅子は頑丈な作りでびくともしないのであきらめてしまった。
相変わらず大股開きの態勢である上に、先ほどの姿見がまだ片付けられていないので、目を開くと、惨めな自分の姿が見える。
薫は目を閉じて脱出の方法とか、縁を説得する方法とかを考えていたのだが、どれも今一つだった。
そう考えているうちに、気がついたら尿意をもよおしていたのだった。
 考えてみれば、今朝、道場で襲撃を待つ直前に御不浄に入って以来、御不浄に行った覚えがない。
今が何時かはわからないが、ある程度の時間がたっていることは事実であろう。
 いったん気にし始めると、その尿意の比重がだんだん重くなってきたのがわかる。
はじめはちょっとの間なら忘れることのできた尿意も、今は一瞬足りとも気が抜けない状態になっている。
足も内股にしてもじもじしないと耐えにくくなってきた。

 縁が再び現れたのはそんなときである。

「よう、お嬢ちゃん。待たせたね。少しは元気になったかい?」

 薫は、猿轡をしたままでは何を言っても意味がないのが判ったので沈黙で答えた。

「・・・答えてくれないのか。ま、いいだろう。それより猿轡をはずしてあげよう。いいかげん、何を言ってるか判らないのには疲れたからね。そうそう、この地下室は防音設備がしっかりしてるから大声をあげても無駄だからね」

そう言いながら、縁は薫の猿轡をはずした。

「さて、淫乱で露出狂のお嬢ちゃん」
「なによ、私はそんな女じゃないわよ」
「ん?おっぱいを震わせながらあんなに自分から股を開いたのに?あんなに濡れていたのに?」
「それはあんたが私を吊るしたからでしょ!」
「確かに吊るしたけれど、それしかしてないでしょ?お嬢ちゃんが大股を開いたのはお嬢ちゃんの意思でしょ?」
「違うわよ。誰だってあんな感じで吊るされたらああなるでしょ」
「じゃあ、俺が触ったらあんなに濡れていたのはなぜ?」
「そ・・・それは・・・」
「まだ処女なのに、あんなに濡らすなんて、お嬢ちゃんは淫乱なんですよ」
薫は一言も言い返せず、黙ってしまった。
『私はそんな女じゃない』と思いつつも、身体が反応してしまった、という事実の前に『もしかして淫乱なのかも』という考えを捨てきることができなかった。

「それに、こうやって話している最中も、卑猥に腰を動かしてるじゃない」
「あ・・・これは・・・」

薫は逡巡した。
うらわかき乙女が御不浄につれていって、などというはしたない言葉を、口に出すものではなかったからだ。

「まあ、いいか。じゃあ、用がなければもうしばらく休んでてくれたまえ」
「あ・・・」

薫は思わず声を出してしまった。
そろそろ限界に近いことは判ってる。
今を逃してはこの場で漏らすことになる。
薫は恥をしのんで縁に頼むことにした。
薫は顔を赤らめて

「あのう・・・御不浄に行きたいの・・・」
「厠に?厠に行ってなにをするんだい?」と縁。
「あ・・・用を・・・用をたしたいの」
「用って何?まさか逃げようって算段?」
「違います。その用じゃなくって・・・」
「じゃあどんな用?ちゃんと言ってくれないとわからないよ」

縁はあくまでとぼける。
薫は口惜しかった。
猫がねずみをいたぶるように、薫の口から恥ずかしい言葉を言わせるつもりなのが判ったからだ。
しかし、生理的な欲求が、薫の羞恥心を上回った。

「お小水を・・・お小水をしたいの」

というと、薫は真っ赤になって目を伏せた。

「ほお、小便をね。すこし待てないのかい?」
「い、いえ、・・・も、もう我慢できないの・・・」

薫の声がだんだん小さくなっていく。

「我慢できないってどういうこと?」
「・・・も・・・漏れそうなの・・・お小水が・・・」
「ふうん、こらえ性がないんだね」

そう言いながら、縁は薫のほうへ近づく。
(恥ずかしかったけど、これで御不浄へ行ける)
薫はそう思った。
しかし、縁は薫の股間を広げると、手にしていたクリップで薫の尿道を挟んだ。

「痛い!。何するのよ!痛い、はずしてよ!」

薫が叫ぶ。

「そんなこらえ性のないお嬢さんには、すこしお仕置きをしないとね。ほら、ここにたらいを置いておくから、したかったらここでするといいよ」
「お願い、御不浄に連れてって!お願いだから!!こんなところで惨めなことをさせないで!お願いします!」

懇願する薫を無視して、縁は姿見の横に別の椅子を持ってくると、そこに座った。

(注:一時=2時間)

To be continued.


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