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 第6章 2日目の明け方

1.

明け方。
秘密警察のアジトで騒ぎが起こった。
あろうことか、アニーと霞が、それぞれ同時にアジトに侵入したのだ。
ところが相互の連携はおろか、その存在すら知らなかった。
おかげで、霞はアニーが陽動として配置したダミー人形に手裏剣を投げ、そこから噴出した麻酔薬で昏倒。
アニーは霞が逃げる際に用いるはずであったブービートラップに引っかかり木の上から落ちてきた網に拘束され、もがいているところを捕獲されてしまった。


2.

2人が気が付くと、10畳ほどの部屋に入れられていた。
金属探知機などで全身につけていた武器などは、靴底に仕込んだナイフの類まですべて取り上げられてしまった。
2人が意識を取り戻し、互いに話をしようとしたとき、スピーカーから声が響いた。
「おはよう、お嬢さん方。同時に進入した割りには手順が悪かったようだな。さて、お嬢さん方の正体を知りたいのだが・・・聞かせてはくれないだろうな。断っておくが「道に迷った」といった言い訳は通用しない。テレビカメラに2人の人間離れした活躍が残っているからな。しかし、二人同時に聞いても仕方が無い。どちらか一人だけに聞こうと思う。で、どちらか立候補するか?」
2人とも顔を見合わせた。
相手もどこかの諜報機関の一員であることは気がついた。
それはすなわち、相手も尋問はされたくない、ということである。
「そうだろう。立候補はしないだろうな。そこで、2人に闘ってもらう。負けたほうに尋問しようと思う。いいね。では、はじめ!」
2人は互いに間を取るように飛び退った。
話す機会があれば、共同して抜け出すことも考えられた。
しかし、相手が何者か、あるいは何を目的としているのかがわからない以上、安易な共同は不可能である。


3.

この戦いは霞が不利であった。
もともと、くの一は得物を用いた戦いの方が多い。
格闘技は最後の手段であり、相手を倒すよりは自分が逃げることに主を置いていた。
さりげなく、隠し持っていた目潰し、唐辛子の粉などを探ってみるが、すべて取り上げられてしまったようだ。
相手は身長170センチ弱。手足がすらりと長く、リーチは相手のほうが長そうである。
使う武術は不明である。
一方の霞は忍び装束で、見る人が見ればどのような武術を使うか想像がついてしまう。
こういう場合、忍びの掟としては逃げるのが鉄則である。
不利な戦いは避け、自分の有利な時・場所を選べばよいのだ。
しかし、今回は逃げられない。
霞は腹をくくった。
相手は自分が有利だとわかっているはずだ。
だから、相打ちになるような戦いは避けるはずだ。
そこが狙い目だ。
相打ちになる戦いを仕掛ければ必ず相手に隙が出来る。
そこを狙おう、と決めた。
通常の相手ならそれが通じたであろう。
しかし、相手が悪かった。
アニーも霞と同様の思考の路を辿り、相打ちねらいを察知していた。
相打ちを狙うには、基本的には相手と組み合う必要がある。
打撃戦では一方的にたたかれるだけになることは明白であった。
だから、アニーはヒット&アウェーを原則として、霞が飛び込もうとした瞬間、蹴りを浴びせつつ間合いを取る、戦法を取った。
そして、時折、第2撃、3撃も加える。
ヒット&アウェーのままだと、間合いを取る瞬間に追撃される可能性があるからだ。
霞は徐々に体力を奪われていった。
蹴りはすべてカウンターで、しかも胴に集中している。
手や足はよけやすいが胴は一番大きく、重心があるためにどうしてもよけづらい。
しかも攻撃をしようとしているため、防御が出来ない。
いつしかアニーの蹴りは攻撃のため、霞はそれを防御する一方になっていた。
不意にアニーが後ろを向いた。
霞は虚をつかれ一瞬の隙が出来た。
アニーの後ろ回し蹴りが霞の頭部に炸裂した。
一瞬、意識が遠のく。
その隙にアニーは懐へ飛び込むと掌底をかませた後、エルボーを叩き込み、よろける霞を跳ね腰で投げた。
そして、床に大の字になった霞めがけ、両足でフットスタンプを加えた。
霞は息が出来なくなり、身体を折り曲げて悶絶する。
その隙にアニーは霞のバックを取り、スリーパーから落とした。
霞が気絶すると、天井から棺おけのようなものが下りてきた。
アニーは、霞を棺おけに入れ、それが上っていくのをじっと見つめていた。

To be continued


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